ビデオ


「ねぇ、知ってる?呪いのビデオって本当にあるんだよ」
 巨大なテレビの隣に小さく置かれたDVDプレーヤー。そこからレンタルのシールの貼られたディスクを取り出しながら、僕は言った。
「そんなこと言って俺様を怖がらせようったって無駄だぜ。所詮は作り話だ」
「その割には、大分怖がってたみたいだけど?」
「てめぇが大人しく観てねぇからだよ。バーカ」
 いつもはゆったりと座るソファの上で、膝を抱えて小さくなっている。そんな姿で悪態を吐かれても、迫力がないし。
「ニヤけてんじゃねぇよ。気色悪ぃな」
 そりゃ、ニヤけだってするって。
「ごめんごめん」
 咳払いをし、なんとか彼の言う気色悪い顔を元に戻すと、僕は彼の隣に戻った。持っていたDVDを渡す。けど。彼はそれを受け取るなりテーブルの上に放った。それで安心したのか、足を伸ばしてしまう。
 折角、可愛かったのに。
 またちょっと悪戯してみようか、なんて思ったけど。余り怖がらせるのも可哀相だから、止めておいた。それに、呪いのビデオの話がまだ終わってないし。
「そうそう。その呪いのビデオね。実は僕、持ってるんだ」
「……なん、だと?」
「勿論、さっき観てた映画のとは違うけど。なかなか、衝撃的だったよ」
 ビデオの内容を思い出し、僕は重々しく頷いた。そう、あれはなかなか衝撃的な映像だった。
「流石の僕でも、恐ろしいと思ったかな」
「………っ」
 彼の喉が、鳴る。僕のその真剣な口調に、彼はやっと信じてくれたらしい。
「それ、で。てめぇはそれ、ちゃんとダビングして他の奴に見せたんだろうな?」
 真面目に心配そうな顔をして言うから。僕は思わず吹き出しそうになってしまった。それを堪え、首を横に振る。
「あと何日だ?」
「うん?」
「呪いが実行されるまで、あと何日残ってやがんだよ」
 僕の肩を思いっきり掴み、前後に揺する。ちょっと落ち着いてよ、と言おうとしたけど、どうやらそれは聞き入れてくれそうになかったから。
「っ」
 反動を利用して彼を引き寄せると、僕は深く唇を重ねた。彼の手から力が抜け、その後で、また強く肩を掴んでくる。
「もう、手遅れなんだ」
「手遅れ?」
「うん。と言うか、そのビデオを観た時は既に、僕は呪いにかけられてたんだよね」
「……どういう意味だよ」
「分からないかな」
 未だに心配そうな表情の彼に僕はついに堪えられなくなり、笑い出してしまった。彼の表情が、物憂げなそれから、訳が分からないとでも言ったようなものに変わる。
「だからね、その呪いのビデオは、跡部景吾の秘蔵VTRだったってこと。そりゃ、皆、ダビングする筈だよ」
 でも、そんなことをしても、呪いは避けられない。早い奴で見た瞬間、遅い奴でも2週間以内に、恋に落ちる。ああ、何て恐ろしい呪いのビデオ。
「まぁ、何よりも恐ろしいのは、君のその美しさなんだけどね。それにしても、出所はどこなんだか。流石の僕でも吃驚するような内容だったよ、ホント」
 だからこそ僕は、ダビングして他人に渡すなんて真似はしなかったのだけれど。でも、僕一人が止めたって、増殖は止まらない。
「日本中に呪いが広がっちゃったらどうしようね。って、跡部?」
「うるせぇ。てめぇなんか勝手に呪われてろ、バーカ」
 ホッとしたのと、恥ずかしいのと、ムカついてるのと。色んな感情がぐちゃぐちゃになったような顔で彼は言うと、僕の肩を思い切り引き寄せてキスをした。





365題『リング』のコメントから。
跡部の秘蔵映像たっぷりのビデオはまさに呪い。
この後、でも、この呪いのビデオを見た人は、もれなく不二に抹殺されます。ダブルで呪い。
ってか、ベタでスミマセン。
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