Caramel
「不二っ!」
 誰もいないテニスコートで一人待っていた僕は、大手を振って走ってきた彼に小さく手を振り返した。
 息を弾ませた彼が、小さく飛び跳ねて僕の前に立つ。
「遅刻だよ。丸井くん」
「ごめん。不二の誕生日プレゼント選んでたら、時間かかった」
「え?プレゼント?」
「何だよ。俺がプレゼントあげるの、そんなに変かよ」
「いや」
 お金がないって、そう言ってた気がするけど。
 そう。あれは確か、冬休み最後の日。まだ初詣に行ってないという彼を連れて、お参りに行った時だ。
 僕は何も望んでないのに、まるで先制するかのように、俺はビンボーだから不二に誕生日プレゼントはあげないからな、と彼は言った。僕もそれでいいと思ったら、彼の言葉に素直に頷いた。その筈なんだけれど。
「不二、手ぇだして」
 あまり納得の言ってない僕に構わず彼は言うと、それとは反対に自分の両手を後ろに隠した。隠すようなものを彼は手に持っていただろうかと、思い返してみたけど、彼は何も持っていなかったように思えた。
 だとしたら彼は一体何を僕にくれるつもりなのか。もしかしたら、愛とかいってただ僕の手に自分の手を重ねるだけなんじゃないだろうか。けれど、それならそれで、元々プレゼントなんて望んでいなかったんだから構わないか。
「早くしろよー」
 なかなか手を出そうとしない僕に、焦れた彼が催促する。
「はいはい」
 子供の駄々のようなその姿に苦笑しながら、僕は両手を差し出した。
「目ぇ、瞑って」
 今度はすぐに彼に従い、目を瞑る。すると、両手に僅かな冷たさと重みがやってきた。いいぜ、という彼の声に、ゆっくりと目を開ける。
「これ……」
「不二、激辛好きだろ?近所の玩具屋で見つけたんだ。ご当地もんだって。いろんな種類のが入ってる販売機だったから、これ引き当てるの大変だったんだぜ」
 自慢げに言う彼と、手の中に置かれた小さな箱を見比べて、僕は安堵にも似た笑みを零した。
 僕の手の中にあるのは、ご当地もののキャラメル。どうしてこれがご当地ものになるのかは分からないけど、兎に角、絵柄は辛そうだ。
「ありがとう。じゃあ、早速ひとつ戴こうかな。丸井くんは?」
「いい、いい。俺はいいから!」
「冗談だよ。丸井くんがは辛いもの苦手だっていうことは分かってるから」
 顔を青ざめてまで断る彼に、僕は笑うと、箱を開けてキャラメルを一つ口に入れた。
 その後で、ああ、と思う。
「ねぇ、丸井くん。僕、今このキャラメル食べちゃったけど。どうしようか。これじゃあキス、出来ないね」
 ピリピリとした辛さに顔を緩ませながらいう僕に、彼は、あ、と間抜けにも口を開けたままどうやら硬直してしまったようだった。




ご当地キャラメルがランダムで出てくるガチャガチャをこないだ見つけたので。
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