tenderness


 強くなりてぇ。ずっとそう思ってた。誰よりも強く、誰しもが憧れる存在に。それがオレの目指すべき場所だって。ずっと思ってた。
 でも、今は違う。
 確かに今でも強くなりたいと思う。思うが、それ以上に、優しくなりたい。オレを救ってくれたこの人みたいに。
 だから。
「ねぇ。どうしたら不二サンみたいに優しくなれるんスかね?」
 温かい腕の中、不二サンにぴったりと身を寄せながら訊いたのに。
「僕は優しくないよ」
 根本を否定されちまった。それじゃあ話しが進まねぇから。オレは不二サンから少しだけ体を離すと、首を横に振った。
「優しいっスよ。だってオレ、あんだけ酷いことしたのに。こうして…」
 オレを許し、傍に居てくれる。囁くようにして言うと、オレは不二サンに触れるだけのキスをした。
 唇を離すと、不二サンは一瞬キョトンとした表情をした後で、無邪気な顔で微笑った。
「別に僕は、赤也を許したわけじゃないよ」
「え?」
 思いもしなかった言葉に、オレは聞き間違えたのかと思った。余りにもさらりと普通過ぎるトーンで言ったから。
「許してないよ、赤也のこと。君が僕や他の人たちにした非道いこと。許してない。多分、まだ」
「でも、だって…。じゃあ、なんで?」
 混乱する頭で、必死に言葉を作り出す。相当酷い表情をしていたのだろう。不二サンはオレの顔を覗き込むと、微かに吹き出したようだった。
「ただ、受け入れたんだ。赤也のしたことも、そのことに多少の憤りを感じた自分もね」
 優しい笑みを浮かべて言うと、不二サンは強張ったオレの顔を解すかのように何度も啄ばむようなキスをしてきた。
 それから逃れるようにして、さらに不二サンとの距離を置いた。実を言うと、少し、怖かった。許していないのなら、なんで傍に居てくれるのか。それが分からなくて。怖い、と思った。
「赤也?」
「じ、じゃあ、何でオレの傍に…?」
 まさか、報復をするため?そんなことはないと分かっていても、他に理由が見つからないから、不安になる。
「……優しく見えるのは、きっと、僕が大してこだわりを持っていないからだよ。大体のことは受け入れる。だから、優しく見える。それだけ。まぁ、受け入れるって言っておきながら、赤也のしたことに憤りを感じてるのは、矛盾してるんだけどね。感情(これ)ばかりは、仕方がないし」
 溜息混じりの声で言うと、不二サンは静かに眼を瞑った。一度だけ深呼吸をし、眼を開ける。強いそれが来るのかと少しドキドキしてたけど。オレを見る不二サンの眼は相変わらず優しかった。
「赤也の傍に居るのは、僕が赤也を好きだから。許す許さないは別にして。好きなんだ。だから、赤也の凡ては出来るだけ受け入れたいって思ってる」
 ゆっくりと手が伸びてきて、オレの頬に触れた。瞬間、オレはビクついたけど。相変わらず優しい体温に、オレは引き込まれるようにして再び不二サンに身を寄せた。
「でも、だから。僕は優しくないんだ」
「え?」
「赤也以外の人、殊に赤也を傷つけようとする人にはね。優しくなれない。こだわりを持っちゃったからね」
 見つめるオレに悪戯っぽく微笑うと、不二サンは深く口付けてきた。
 それを受けながら、オレは以前に聞いた話を思い出していた。あの優しい不二サンが、激怒した話。聖ルドルフの、観月とか言うヤツに。確かあれは、不二サンの大切な弟をそいつが利用してたからだって。
 ってことは。オレは今、そいつと同じくらい不二サンに大切に思われてるってこと?
「赤也。もっと僕に集中して」
 唇を離し少し強めの口調でいう不二サンに、オレは思わず、すみません、と謝ってしまった。不二サンが微笑う。
「凡てを受け入れたいって言ったじゃない。大丈夫。よそ見してる赤也も、ちゃんと好きだから」
「……何かそれ、逆に辛いんスけど」
 言葉とは反対に満更でもない口調で言うと、オレは不二サンを強く抱き締めた。そして、せめてこの人だけには優しくあろうと誓った。





自分で書いていて段々訳が分からなくなってきましたが。まぁそういうことです。
……優しくなりたいなぁ。
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