「おい、不二。」
「……何?」
「また、来てるぞ。あの趣味の悪い服着たヤツ。…早く行った方が良いんじゃねぇ?」
「ん。解かった。サンキュ」

 昇降口を出ると、僕は足早に校門へと向かった。ったく。待ち合わせの場所は近くの公園だと言ってあるのに。守ったためしは一度も無い。
「……観月。」
「んふっ。お久しぶりですね。不二周助。」
 言いながら、不気味なくらいの満面の笑みを僕に見せた。
「……フルネームで呼ぶの、やめてくれる?それと、待ち合わせ。公園だって言ってあるだろ?」
 溜息まじりに言うと、僕は立ち止まらずに歩いた。とりあえず、こいつの私服はやたらと目立つ。とりあえず、学校から離れないと。
「そんな冷たいこと言わないで下さいよ。ボクだって本当な不二クンのこと名前で呼びたいですよ。周助って。でも、呼び捨てにすると、怒るでしょう?不二クンは僕のこと呼び捨てにするくせに」
 僕の隣に並ぶと、腕を組んできた。
「そういうことを言ってるんじゃない。腕を組むな」
「んふっ。照れちゃって。可愛いですね。本当は嬉しいのでしょう?」
 無気味な笑顔を僕に向けると、擦り寄るようにして更にくっついてきた。
 照れるだって?それはお前の勝手な思い込みだよ。はっきり言って、迷惑以外のなんでもない。
 けれど。そんな事言ったところで、こいつには通用しない。一度自分の世界に入り込むと相当なショックに合わない限り、目が醒めない男だ、観月は。相当なショック…そうだな。今度、こいつの前で裕太とキスでもしてみようか。あ。でもそれじゃ、こいつの裕太に対する風当たりが強くなるな。
「どうしたんです?そんなに見つめて。照れるじゃないですか」
 冗談じゃなく、本気で照れているらしい。少し頬を赤らめると、僕から顔を逸らした。
 溜息が出る。別に、見つめたくて見てたわけじゃないんだけど。
「でも、今日は随分と遅かったようですね。ボク、教室まで迎えに行こうかと思ってしまいましたよ」
 どこをどうすれば『でも』に繋がるんだ?理知的な奴かと思ったけど、こうして付き合ってみるとこいつはただの莫迦なんだっていつも思い知らされる。僕も、変な奴に好かれたもんだ。
「校内には入らないでくれよ。ケーバンとメアドは教えてあるんだ。何かあったら、そっちに連絡するようにしてくれ」
 公園についた僕らは、奥にあるベンチに座る。
「…何かあったらじゃないとダメですか?」
 突然。観月は僕の両手を掴むと、訴えるような潤んだ眼を向けた。
「は?」
「だから、その…淋しいから、とか。そういう…理由もないのに、不二クンに連絡するっていうのは、やっぱりダメ……ですよね」
「…………。」
 本日二度目の溜息。
 僕は観月の手を解くと、眼で彼のバッグを示した。それに気づいた観月は、慌ててバッグから大きな封筒を取り出す。
「今日は月に一度の身体検査の日でしたから。資料は少し多めです」
 渡された封筒の中身にさっと目を通すと、僕はそれを自分のバッグにしまった。
「悪いね、いつも」
「んふっ。気にしないで下さい。不二クンの裕太クンを想う優しい気持ちのお手伝いがしたいと言い出したのはボクの方なのですから。それに、そのお蔭で、こうして週に一回、不二クンに会うことが出来ているわけですし」
 僕が貰った封筒の中には一週間の裕太のデータ…というか、観察記録のようなものが入っていて、僕は週に一度こうして観月と逢いその記録を受け取っている。ちょっとストーカーっぽいかな、とも思ったんだけど。観月が言い出したことだし、僕が直接観察しているわけじゃないから、バレたって多分僕は捕まらないし。まあ、いいかな、なんて。……そう、想ったのが間違いだったのかな。
 裕太の記録を受け渡す条件として出されたのが、週に一度の観月とのデート。まさか、観月が僕に恋をしてるとは、ね。初めは、観月の僕への想いはただの錯覚で、すぐにこんなデートなんかしなくなるなんて考えてたんだけど。どうやら、本気らしい。
「それで。その、さっきの話の続き…」
 落ち着かない様子で前髪をいじると、観月は言った。緊張してるんだか照れてるんだか何なんだか。良く判んないけど、テニスをしているときとは違う、凄く弱気な観月がそこにはいた。
 しょうがないな。
 僕は溜息を吐くと、観月の手を優しく包んだ。
「不二クン?」
 不安そうな眼で、僕を見つめる。
「観月、黙って。」
「え?…あ、はい」
「目、瞑って。」
「………はい。」
 大人しく、観月が目を閉じる。僕はそれを確認すると、唇に、触れるだけのキスをした。
「もう、目、開けていいよ」
「…………。」
 観月は戸惑ったような表情を見せると、手を離し、自分の唇を指でなぞった。感触を確かめるみたいに。
「不二、クン。今のは……?」
「うん。まあ、あれだ。いつも裕太の面倒を見てくれてる、そのお礼」
 言って微笑って見せると、観月は照れたように俯いた。その肩に手を回し自分の方に引き寄せる。観月は困惑気味の表情で僕を見つめた。
「『淋しい』っていうのは、立派な理由だよ」
 クスリと微笑い、今度は額に唇を落とした。観月は耳まで顔を真っ赤にすると、それを隠すように僕の胸に顔を埋めた。
「……き。」
 観月が、小さく何かを呟く。
「……観月?何?」
 聞き返す僕に、観月は顔を上げると、恥ずかしそうに微笑った。
「やっぱり不二クンは優しいですね。そういうところ、大好きですよ。」
 ……………あぁ。





いちお、周裕前提で。
乙女観月。うわっ。きーもーいー。(※誉め言葉)
不二くん、オサレギミですね。暴走観月には勝てないのかな?う〜ん。
でもさ、なんかさ、キモイのって、書いてて楽しいよね。
今度は裕太もちゃんと出して、三人でドタバタしようかな。
不二→裕太→観月→不二、みたいな(笑)

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送