午後の紅茶


「教えてください。いったいボクの何が気に入らないというんですか?」
「全部」
 にべもない言い方に、ボクは項垂れた。
 ここはとある喫茶店。ビルとビルの間に密やかにあるそれはとてもレトロで。彼の雰囲気にピッタリだ。それにBGMには彼の好きなジャズのレコードが流れる。僕はそんなものに興味はないのだけれど。
 総ては、彼のため。
 今日もその甲斐あって、彼はこうしてボクに逢いに来てくれた。
「いい加減、その趣味の悪い私服で学校に来るのやめてくれないかな」
 溜息混じりにそう言うと、彼は窓の外に眼をやった。
 訂正。優しい彼は、ボクの誘いに嫌々のってくれた。
「不二クン」
 名前を呼んでみるけれど。考え事をしているのか、彼の耳には届いていないようだった。
 仕方がないからアイスティーのストローを咥え、彼を見つめた。
 常にそこにある、柔らかい笑顔。うっとりしてしまう。
 けれど、ボクが最も好きなのは、あの眼。ボクを見下ろしたときの、総てを凍てつかせるような、蒼い、眼。あれはボクだけに向けられたもので。今でも、眼を瞑ると想い出せる。
 きっと、あれがボクの総てを変えた。
「寝てないで、さっさと用件を言ってくれない?」
 彼の言葉に、ボクは幻想から引き戻された。眼が合うと、鋭かった彼の眼が少しだけ優しくなる。それが日々の生活の中で身に付いた反射的なものだということは調査済みだけれど、それでも、ボクに微笑んでくれているのだと言う事実が、少し嬉しい。
 ボクはストローから口を離すと、大きく息を吸い込んだ。
「あの、ですね…」
「あ。」
「え?」
 彼が指差したのは、窓の向こう。道を歩いている一人の女性。
「…気づかないかな」
 呟き、手を振る。彼女も彼に気づいたらしく、手を振ってきた。
「不二クン、彼女は…?」
 訊くボクを無視して、彼は彼女に店の中に入っているように促す。
「あ。こっち、こっち!」
 店に入ってきた彼女を、彼は手招きすると、自分の隣に座らせた。
「不二クン、こちらは?」
「ああ。何だ、まだ居たの」
 うざったい、という気持ちが充分に含まれた声が返ってきた。別に、それは構わないのですけれども。
「周助。彼は?」
 今度は、女のほうが彼に訊いた。
「ボクは観月はじめといいます。不二クンとは…」
「観月。」
 身を乗り出し、自己紹介をしようとしたボクに、彼は鋭い視線を浴びせた。口元が無音の言葉を吐き出す。コロス、と。
 本当は、そんな脅しなんて怖くないんです。彼は優しいヒトだから、そんなことを言っていても、実際に僕を殺したりなんかはしないんです。けれど、ここは彼の顔を立ててあげないといけませんから。
 ボクは、スミマセン、と呟くと大人しく座りなおした。
「彼は、観月はじめ。僕の……ただの対戦相手だった奴」
「今日は」
「……コンニチハ」
 彼女はボクに頭を下げると、優しく微笑った。その笑顔にデジャビュのようなものを感じたけれど。そんなことを気にしている場合ではなかった。
 机の下で。彼と彼女が手を繋いでいる。しかも、指を絡める『恋人繋ぎ』というやつで。
「あの、不二クン。こちらは…」
 彼の顔色を伺いながら、恐る恐る聞いた。怒るかとも思ったのだけれど、意外にも、彼は優しい笑顔をボクにくれた。
「ああ。これは由美子。僕の彼女だよ」
「………え?」
「やだ、周助ったら。彼女だなんて」
「あ。そうだ。何か飲む?」
「いいわ。貴方のを貰うから。それに、すぐ出るんでしょう?」
「……そうだね。」
 彼の言葉を理解するまでに、二人はなにやら会話を進めていたようだった。
 不二クンの、彼女?そんなの、ボクの調査にはない。ボクは知らない。
「不二くんっ!」
「何?」
 また、だ。冷たい眼。この由美子という女が彼の彼女だということに間違いはないようだ。彼は自分と大切なヒトとの間に邪魔が入ると、こういう眼をするから。
 でも、ボクも。こんなことくらいで負けてはいられません。だってその眼、ゾクゾクするくらい素敵ですから。
「……ボクの嫌いなところ。1つあげてください。直しますから。そうしたら、少しはボクのこと好きになってくれるでしょう?」
 ボクの言葉に、厭きれたような顔をした。隣の彼女が、不思議そうに彼を見つめる。
「ゴメン。これ、ちょっと頭の可哀相なコなんだ」
 優しい笑みで彼女に言うと、ボクの方を振り返った。今度は、嘲笑うような眼の色。
「そうだね。キミの嫌いなところ。全部だけど。まあ、一番を強いてあげるなら、『僕を好きなところ』かな」
「………え?」
「キミが僕を好きじゃなくなれば、僕はキミを嫌いじゃなくなるかもね」
 ふ、と不敵な笑みを見せると、彼は彼女と手を握ったままで立ち上がった。
「じゃ、行こっか」
「いいの?彼、ほっといて」
「いいんだよ。用は済んだみたいだしね」
 自分の荷物と彼女の荷物を片手にまとめると、彼は一度も振り返らないで店から出て行った。もちろん、伝票は置いたまま。
「…ボクが不二クンを嫌いになれば、不二クンはボクを嫌いじゃなくなる?」
 一体、どういう意味なのでしょう?
「って。不二クン!?」
 そういえば、不二クンがいない。さっき出て行ったような気はしたけど…。
「ちょっと、待ってくださいよ!」
 伝票と荷物を手にすると、ボクは彼の元へと急いだ。





「周助って変なのに好かれるわよね」
「それって、裕太もってことかい?由美子姉さん」
「裕太はあなたを好いてはいないわよ。だから、変じゃないわ」
「……相変わらず、言い方キツイね。裕太は変な所で素直じゃないから。愛情をうまく表現できないだけだよ」
「………周助のプラス思考は尊敬に値するわ」
「姉さんの電波も尊敬するけどね」
「…何よ、電波って。」
「チャネラーっていうんだっけ?姉さんの占い、よく当たるよね」
「あんた、そんなこというなら、もう裕太をうちに呼ぶの手伝ってあげないわよ」
「姉さんこそ。そんなこというなら、もう二度と姉さんのストーカー退治してあげないからね」
「……あんたには勝てないわ。一体、どこで育て方間違ったんだか」
「まぁ、姉さんの所為じゃないってことは確かだネ。ものぐさだし」
「…うるさい。」
「ところでさ、いつまで僕たち歩いてないといけないの?姉さん、車は?」
「あるわよ。でも、駄目。女に送ってもらう男なんてマイナスよ」
「だって僕、免許取れる歳じゃないし」
「それもそうだけど、後ろ。彼、あと尾行けてるわよ。あれで隠れてるつもりなのかしら?」
「ああ。ホントだ。よく気づいたね。流石、電波系」
「………自分だって、本当は気づいていたくせに。また一段と性格悪くなったわね」
「裕太を守るためにね」
「……ブラコン」
「愛だよ。愛。あ。姉さんのことも、ちゃんと愛してるからね」
「はいはい。私も愛してるわよ」





ゴメン。書きたかったのは由美子姉さんが電波系だと言うこと(笑)
エスパー。エスパー。
ぶっちゃけ、観月はどうでもいい(笑)
だから、公認近親相姦(爆死)

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