秒読み開始!?


「やぁ。」
 ドアを開けたボクに優しく微笑いかけるその姿に、ボクは思わず持っていた鞄を自分の足に落としてしまった。
「った…」
「莫迦だなぁ」
 クスクスと愉しそうに微笑いながら、紅茶をすする。その姿は、まるで自分の部屋にでも居るよう。もちろん、この部屋はボクの寮室で、彼が持っているティーカップも、座っているソファも、総てボクのものだ。
「入りなよ。いくらルドルフの制服を着てるからって言っても、僕は何故か目立つからね。このままだと、君も怒られちゃうよ?」
「……ちっ」
 わざとらしく舌打ちをすると、ボクは足の上にある鞄を手にとり、部屋に入った。廊下に誰も居ないのを確認してからドアを閉め、鍵を掛ける。行き成り誰かが入ってくる可能性は低いが、念には念を、だ。
「はい、紅茶」
 振り返ると、いつの間に近づいたのか、彼が紅茶を差し出してきた。
「不二クンっ!」
「はい。美味しいよ」
 眉を吊り上げるボクに、相変わらずマイペースに微笑う。どうやらこの紅茶を受け取らないと、話を進めることは出来ないらしい。
「………ありがとうございます」
「いえいえ」
 ボクがカップを受け取ったのを見て満足そうに微笑うと、彼はまた元の位置、ソファへと座った。ボクもいつまでもここに立っているわけには行かないので、彼の隣に…間隔を空けて座る。
「……で。何なんですか、一体」
「似合うでしょ?裕太に買って貰ったんだ」
 言いながら、彼は立ち上がると、ボクの前でターンして見せた。いくら兄の命令だからって、神聖なるルドルフの制服を買い与えるなんて。あのバカは何を考えてるんだか。
「あ。そうそう。裕太のこと怒っちゃ駄目だよ。善意でくれたんだから」
 ボクの考えを読んだかのように、彼はボクの唇に人差し指を当てると言った。鬱陶しいその指を、払い除ける。
「善意も何も…」
「『観月と僕の為を思うなら』って言ったら、買ってくれたんだ。まあ、他にも理由はあったんだけどね」
 得意げに言う彼に、ボクは大きな溜息を吐いた。そんなボクを見てか、彼はクスリと微笑った。間隔を詰めて、ボクの隣りに座りなおす。
「……ねぇ。何で僕がここにいるか。ちゃんと解かってる?」
「解かりませんよ。解かるワケないでしょう?貴方の考えていることなんて」
「そう。データマン失格だね」
「なっ…」
 彼の言葉に反論をしようとして…愉しそうなその顔を見て、諦めた。まただ。如何して、こう、彼のペースに巻き込まれてしまうのか。何だか、頭痛が…。
「何?観月、頭痛いの?」
 コメカミに触れているボクの手をとると、彼は顔を覗き込んできた。そのキョリに危険を感じ、ボクは思わず背を反らしてしまった。それが癇に障ったのだろう。彼の眼が、開く。
「何を期待してるのかな?」
 先ほどとは違う、いつもよりオクターブ低い声色。動けないでいるボクの膝に跨ると、彼は両手をしっかりと掴んだ。ソファの背にカラダを押し付けられる。顔が、鼻先が触れるくらいまで近づいてくる。脳裏を掠める、嫌な妄想。
「ひっ…」
 自分の考えに、自分で怖くなって。ボクはきつく眼を瞑った。途端、膝から重みが消えた。腕の痛みも。
「なんてね。冗談だよ」
 すぐ隣りから聞こえる、愉しそうな声。ボクは恐る恐る眼を開けた。視界に入ったのは、何の変哲も無い天井。多量の安心と、少量の残念。
 ……残念?何故?いいえ、それはきっと気のせいです。
 ボクはソファに座り直すと、動揺を振り払うように、紅茶を啜った。
「これね、裕太から誕生日のプレゼントって貰ったんだ」
 手、震えてるよ?とカップを持つボクの手を指差しながら、彼は言った。
「でね。君はどうせ忙しくて僕のところに来れないだろうから。僕からわざわざ出向いてあげたの。ね。嬉しい?」
「……その前に。何故ボクが貴方のところへ行かなくてはならないのです?」
「何言ってんの。今日は僕の誕生日だよ?恋人想いの観月のことだから、勿論、誕生日のプレゼントを用意してるんでしょ?」
 頂戴、と、微笑いながらボクに両手を出してくる。ボクは紅茶を一気に飲み干すと、空になったカップを彼の掌に置いてやった。
「何?御代わり?」
 相変わらず、マイペースなヒトだ。どうやら、彼にははっきり言わないとダメらしい。なんて、今更ですね。
「知りませんよ。貴方の誕生日なんて。例え知ってたとしても、何故ボクが貴方にプレゼントをあげなくてはいけないんです?」
「何でって。恋人同士だし」
「誰と誰がですかっ!」
「僕と君が。」
 自分とボクとを交互に指差しながら、彼は、何故当たり前のことを訊くのか、という風な口調で言った。その姿に、ボクはまた、大きな溜息を吐いた。
「いつそんな関係になったんです?ボクは知りませんよ」
「いつって。僕たちもう、キスまでしちゃってるじゃないの」
 人差し指をピンと立てると、彼はボクの唇に触れた。その後で、その人差し指で自分の唇にも触れる。
「あれは不二クンが無理やり…」
「無理矢理?違うよ。観月だって抵抗しなかったじゃない」
 それは貴方の眼に怖気づいたからです。
 などと情けない反論のできるはずの無いボクは、何も言えずにそのまま押し黙った。それをどう受け取ったのか、彼は頷くと、満足そうに微笑った。
「だから、さ。プレゼント、頂戴?」
 もう一度、両手を揃え、ボクの前に出してくる。
「だから、そんなもの無いって言ってるでしょう?」
「嘘吐かないの。ホントは用意してあるんでしょ?」
「無いって、言ってるじゃないですかっ!」
 しつこく出してくる彼の手を払うと、ボクは彼の目の前に空の両手を出して見せた。これで、ボクが何も用意していないということが解かるだろう。
 などと思ったのが間違いで。彼は暫くボクを見つめた後で、クスリと微笑った。
「ああ、成る程。観月自身がプレゼントになってくれるってことか」
 呟き、ボクに手を伸ばしてくる。また、あの恐ろしい眼を開いて。
「止めてくださいっ」
 その眼に掴まって動けなくなる前に。ボクは伸びてきた彼の手を思いっきり払い除けた。出来るだけ、彼とキョリを置く。
「貴方の誕生日は来年にならないと来ないじゃないですかっ!来年ならまだしも、赤の他人に、誕生日でもないのになんでプレゼントなんか――」
 言いかけて。ボクは口を閉ざした。恐る恐る彼の眼を見ると、案の定、愉しそうな笑みを浮かべていた。
「何だ。ちゃんと知ってたんじゃない。僕の誕生日」
 言うと、彼は再びボクに手を伸ばしてきた。腕を、掴まれる。もうダメだと思い、ボクは眼を硬く閉じた。
 が、彼はボクの腕を強く引いて立ち上がると、あっさりと腕を離した。
「……不二クン?」
「今日はこれで帰るよ。明日は卒業式だしね。代表でなんかやるんでしょ?そんな時に腰なんか痛めてちゃ、可哀相だしね」
 クスクスと、愉しそうに微笑う。どうやら、危機は回避出来たらしかった。とはいえ、完全に、では無いけれど。
「さっきの君の言葉、僕の頭の中に刻んどいたからね」
「え?」
「来年、僕の本当の誕生日なら、プレゼントくれるんでしょ?言ったよね『来年ならまだしも』って」
「……あ、あれは…」
「愉しみだなぁ。まあ、僕としては欲しいものは1つだけなんだけどねぇ」
 ボクの言葉はもう耳に入っていないようで。彼はブツブツと呟きながら、鞄を手にとるとドアの方へと向かって行った。ノブを廻し、中途半端にドアを開いた所で振り返る。
「来年、ね。躰で良いよ。その方が、お金もかかんないし、いいでしょ?まあ、これから1年間、我慢しなきゃだけど。仕方ないよね」
「ちょっ、不二クン、ボクはまだ――」
 口を開いたボクに、彼は眼を開いて対抗してきた。その所為で、また、動けなくなる。
「じゃ。愉しみにしてるね」
 ボクが何も言えなくなったのをいいことに、彼は眼を開いたまま、口元だけで微笑うと、そのままドアを閉めて行ってしまった。
 残されたボクは、聞こえないと知りながらも、わざとらしい大きな溜息を吐くしか無かった。





1年後。観月、喰われる(笑)
どうでもいいが、無駄に長いな。そしてタイトルが…テキトー…。
なかなか2人が両想いでラブラブって言うのが無いね。
いや…これもアタシ的には両想いなんだけれども。。。

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