MからSへの贈り物


 ベッドに潜り込み、電気を消す。すると、突然携帯が光った。普段なら無視をしてしまうところだけど。そこに映っている名前に、慌てて携帯を繋ぐ。
「悪ぃ。こんな時間に」
 少し、遠慮がちな声。久しぶりの会話が嬉しくて、僕は声を出さずに微笑った。
「どうしたの?裕太。こんな時間に電話だなんて」
 起き上がり、明かりを点ける。部屋が真っ暗だったのはほんの少しの間なのに、蛍光灯の明るさに、僕は思わず眼を細めた。
「……なぁ、兄貴。今日が何の日だか知ってるか?」
 僕の普通の声に、遠慮は要らないと思ったのだろう。裕太は少し語気を強めながら訊いてきた。その言葉の意味する所は何となく理解るけど。折角の二人きりの会話だから。僕は、知らない、と素っ気無く答えた。裕太の溜息が、聴こえてくる。
「観月さんの誕生日だよ」
 予想通り過ぎる裕太の言葉に、今度は僕が溜息を吐いた。当たって欲しくない時ほど、予想というのは当たるのだ。
「あー。アレの誕生日ね。知ってるよ」
 うんざりした声を出す。僕は椅子に座ると、机の引出しを開けた。輪ゴムで留めてある、葉書の束を机の上に放り出す。
「なんだ。知ってんじゃねぇか」
「知ってるって言うか、一ヶ月前から毎日、カウントダウン葉書が届いてる」
 その中の一枚を手に取る。そこには『観月はじめの誕生日まであと4日』と大きく書かれていた。数字の違う、内容の同じ葉書が、あと29枚ある。
「だったら何でおめでとうの一言も贈ってやんねぇんだよ。観月さん、落ち込んでるぜ?」
 怒ったような声。なんでそんなにアレに優しいの?なんて。裕太が優しいのは知ってるけど、アレに向ける優しさがあるなら、その分をもっと僕に向けて欲しい。
「だって、僕が言う義理ないし」
 だから、僕は出来るだけ冷たい声で答えた。また、溜息が聴こえる。
「兄貴に祝って欲しいから、カウントダウンの葉書を送ってたんじゃねーのかよ」
 今度は呆れたような声。僕もまた溜息を吐いた。机の下に置きっぱなしになっていた小包を机の上に広げる。
「そんなの知らないよ。っていうか、昨日、僕に観月からプレゼントが届いたよ」
 出てきたのは、誤った使い道しかないロープやらローソクやら。その他諸々。口に出すと裕太の教育上に悪いので、僕は詳しくは説明せずに、ただそれだけを伝えた。
「はぁ!?フツーは兄貴がプレゼントやんだろ?」
「だから、プレゼントはいらないってことなんじゃないのかな」
 もしくは観月が莫迦なだけか。と続けようとしたら、受話器の向こうがなんだか騒がしい。
「……裕太?」
「あ。わりぃ。何か、観月さんがいなくなったっぽいから、俺、探してくるから」
「別にいいんじゃない。散歩だよ、散歩」
「だって、さっきまで兄貴から何のアクションもないって沈んで…あ。じゃあ、切るから。あとでもいいから、観月さんになんか言っておけよ!」
「嫌だって。ねぇ、聴いてる?ゆう――」
 僕の制止も聞かず、裕太はあっさりと電話を切ってしまった。聴こえてくるのは無常な電子音だけ。
「はぁ」
 大袈裟に溜息を吐くと、僕は携帯を机に置いた。かわりに、観月から贈られてきた玩具を手に取る。
 こんなの贈ってきて、どうするつもりなんだか。裕太にでも使えってことなのか?だとしても、観月から貰ったものなんて使いたくはないけど。
 もう一度溜息を吐き、机にそれを置く。と、背後で僕を呼ぶ声がした。その嫌な声に、慌てて振り返る。
「……何でお前がここにいるんだ?」
「ふふふ。待ってましたよ、不二クン。やはり僕の考えたとおりでしたね。日付が変わって直ぐのプレゼントなんて当たり前だからって、日付が変わるギリギリにプレゼントだなんて――」
 (恐らく)全裸で僕のベッドに横になっている奴の言葉が終わる前に、僕は机に向かうと、携帯を握った。
「裕太?今、観月がこっちにいるんだけど。引き取って――」
「ああ。兄貴、観月さんを犯るのはいいけど、あんまり酷くするなよ」
 僕の言葉を遮るようにして聴こえてきたのは、余りにも不機嫌な裕太の声と意味不明な言葉。
「は?」
「今さ、観月さんの書置きが見つかった所なんだよ『これから誕生日プレゼントとして不二周助に犯られに行ってきます』ってさ。悪ぃけど。観月さんに謝っといてくれない?俺たちが日付変更直後に祝っちゃったばっかりに、兄貴と夜をすごせなくさせちまって」
「へ?何?何なの?なんで僕が観月をヤらないといけないの?」
「だって兄貴と観月さん、そういう仲なんだろ?平日もちょくちょく会ってるみたいだし」
 …それは裕太のデータを貰う為だよ。なんて言えないから。僕は口篭もってしまった。その沈黙を肯定と取った裕太は、何の感情もない声で、じゃぁな、と言うと、あっさりと電話を切ってしまった。
 急いでリダイアルしたけど。電源まで切ってしまっているようだった。
 絶対怒ってるな。あとで機嫌を取りに行かないと…。
 今日何度目かの溜息。携帯を置くと、気を取り直すように僕は大きく息を吸い込んだ。
 裕太よりも、今はアイツだ。
「ふふふ。裕太クン、歓迎してくれていたでしょう?でも少しだけ焦ってしまいましたよ。幾ら待っても不二クンから何のアクションもないんですから。でもそれは、ボクから不二クンのところに出向けということだったのですね。全く、恥ずかしがりやさんなんですから。ボクは別に、ルドルフの奴等に二人の関係がバレても構わないんですよ。寧ろ大歓迎というくらいです」
 振り返る僕に、彼は一気に言うと、掛けていた布団を捲くった。そこに現れたのは、案の定、見たくもない裸体だった。
「でも、わざわざボクの為に不二クンがお金をかけるのもアレですから。プレゼントの準備はボクの方でさせて頂きました。いろいろ考えたんですけどネ。ボクが独りで楽しむよりは、不二クンも一緒に楽しめるほうがいいと思いまして」
 僕の冷たい視線ももろともせず、彼は照れたように頬を朱に染めながら愉しそうに言った。
「それで、あれらを貴方にプレゼントしたんです」
 そう言った彼が指差したのは、僕の机の上に置かれていた玩具たち。その指先がさすものを追って僕が自分から机の上に視線を動かすと、彼は再び喋りだした。
「不二クンはSですからね。ボクを苛めるの、好きでしょう?ボクは不二クンに苛められるのは嫌いじゃないんです。というか、寧ろどんと来いなんですよ。ボクは不二クンに対してだけはMですからね。だから、それで不二クンはボクを思う存分苛めてください。ボクはそんな貴方の愛を全身で受け止めますからっ」
 ギシ、とベッドが軋む音がして、僕はそっちに視線を戻した。僕と眼があった観月は、ベッドから降り、両手をボクに向かって広げていた。
「さぁ、不二クン。日付変更まであと僅かです。まだ間に合います。一緒にボクの誕生日を祝いましょう!」
 ………莫迦だ、コイツ。



「不二クンっ、これは…?」
「いいから。縛られるのは嫌いじゃ無いだろ?」
 丈夫そうなロープで、彼の手と足をしっかりと縛る。彼は気味の悪い声を上げながらも、どんと来いです、と嬉しそうに呟いた。
「そうそう。あと、これね」
 脱ぎ捨てられていた彼の服で、その眼を隠す。彼を抱き上げると、ベッドから下ろした。
 これで、一先ずは安心だろう。
 あのまま追い出しても良かったのだけど、全裸のまま僕の家の前で騒がれても困るし。取り敢えずはどうにか今夜をやり過ごして、明日裕太に引き取りに来てもらうと言うことにした。多分、この状況を見せて説明すれば、僕は潔白だってことを信じてくれるだろうし。もし信じてもらえなくても、その場で丸めこんでしまえば良い。そうだ。僕と裕太の関係を見せ付ければ、コイツも諦めるかもしれない。
 電気を消し、微妙に温もりの残っている布団に潜り込む。
 暫くそうしていると、ベッドの下で、気味の悪い声が上がってきた。起き上がり、電気を点けると、観月が興奮していることが嫌なほどに見て取れた。
「……不二クンっ、いつまで視姦しているつもりですか!?」
 どこまで莫迦なんだ、コイツは。
 溜息を吐くと、僕は彼の腕を足で突付いた。小さく声を上げ、彼が悶える。気持ち悪いくらいに。
「これで終わりだよ。これが僕のキミへの誕生日プレゼントだ。じゃ。オヤスミ」
 これ以上その姿を見ているのも嫌で、僕は出来る限りの冷たい声で言い放つと、再び電気を消した。
 ふふふ、と暗闇から彼の笑い声。
「放置プレイですね。ふふ。偶にはそういうのもいいでしょう」
 偶には?違う。これが最初で最後だ。
 まだ、ふふふ、と無気味に微笑っている観月を黙らせるべく、僕は起き上がると、彼の口にしっかりとガムテープを貼りつけた。





多分、久しぶりの不二←観。(ほら、ずっと不二→観だったから)
とりあえず、観月、誕生日オメデトウ!遅れたけど。祝ってないけど。
如何せん、画が先に浮かんでしまった話なので、文章のみだと妙な感じ。
画力があれば、漫画にするのになぁ。
視姦とか放置プレイとか。総てお友達から与えられた知識です。思ったよりも品のない話になってしまったι
ちなみに。Mは観月のMじゃないですよ。同じく、Sは周助のSではない。
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