腕の痺れで、オレは目を醒ました。見慣れとるけど、知らない天井が視界に映る。
ああ、またやってもうたんかいな。そう言えば昨日、跡部んとこで酒飲みまくっとったからな。
溜息吐いて、手を伸ばして枕元に置いてある筈の眼鏡を探る。
えーっと。オレの昨夜のお相手はっと。
腕が痺れとって動かすことが出来ひんから、顔だけで隣で寝とる奴を見る。せやけど、そいつはオレに背を向けるようにして眠っとるから、どんな顔をしとんのか見れんかった。
しっかし、この色素の薄い髪の色は、どこかで見た気がすんねんけど。……しかたあらへんな。
眼を瞑り、昨日の出来事を必死で思い出してみる。と、昨夜の一番新しい記憶に、その顔がはっきりと映っとった。
「まさか」
「……ん」
オレの声のせいなんか、そいつは小さな声を漏らすと、寝返りを打った。その顔が、オレの方を向く。
やっぱりや。あかん。跡部に怒られる。
記憶通りのその顔に、オレは頭を抱えたくなった。オレの腕の中で安らかな寝息を立てとったんは、あの青学の天才、そいで跡部の恋人、不二周助。
確かに、見た目がめっちゃ好みやから、一回くらいエエことしたいって思うとったけど。人のもんに手ぇ出すんは性に合わんて、ずっと我慢しとった。それが、酒の勢いとはいえ。
いや、でも、これは幸運と思たほうがええかもしれんな。不二だって、自分の失態をわざわざ跡部に言わへんやろうし。あいつ、独占欲強いからな。バレたらどうなるか。
……にしても、跡部も、こんな可愛いコにえげつないことすんねんな。ま、オレも昨夜ヤっちまったらしいから、何も言われへんねんけど。
とは言え、感触やらなにやら、全然覚えてない。今触れとる腕は痺れてて、感覚がないし。
せやけど。時間は……まだある、な。
「なぁ不二、起き。続きしようや」
不二の肩を掴み、揺すってみる。けど、何の反応も無いから。オレは体を起こすと、不二に圧し掛かった。瞬間、腰、の奥に痛みが走る。
これって、まさか。
「ん。あ…。あれ?忍足?うっそ。もしかして僕…。うわっ、ごめん」
目を醒ました不二は、硬直しとるオレを押し退けると、扉からベッドまで脱ぎ散らかされとった服を逆に辿るようにして身につけてった。オレはというと、頭に浮かんだ事実が嘘やて思おうと必死になっとったが、不二に押し退けられた時に再び痛みが走り、どうしたらええのんか、もう分からなくなってた。
「えーっと、昨日は酔ってたってことで。うん。お互いの身の安全のために、跡部には内緒で。あ、そうそう。腰、お大事に。ごめんね。じゃ」
オレがそうしとる間にも、早々に服を身につけた不二は早口でそれだけ言い、殆んど逃げるように部屋を出て行ってしまった。残されたのは、オレと、信じたくない事実。……事実?
「まさか、な。きっとここまで来るうちに、どっかに腰でもぶつけてんて」
違う違う。そんなことないない。独り言を繰り返して、目を瞑る。すると、さっきは思い出されへんかった残りの記憶が、一気に蘇ってきた。
不二をベッドに押し倒すオレ。けど、キスしとる間に体を反転されて。その後は、流されるまま…。
「マジか」
オレの体内を犯す異物感と、自分の高い喘ぎ声まで蘇ってきて。恥ずかしさに、目眩がする。
ああ、せやけど。ってことはアレや。跡部がえげつないことしてるんやのうて、えげつないことされとんねや。昨夜のオレみたいに。
流石は天才。やること、想像以上や。……未だに、信じられへんけど。
「あーあ。折角可愛い顔しとんのに、やることえげつないて。勿体無いなぁ」
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