そのままの君を
「そういえば忍足って、僕と会うときはいつも眼鏡してこないよね」
 外すわけじゃなく、初めからしてこない。いつも疑問に思ってたけど。どちらかと言うと眼鏡を掛けてる姿よりも掛けていない姿の方が見慣れている僕は、会うとその疑問も忘れてしまって。
 だから今、大会の写真を整理していて思い出した。テニスをしている彼は、伊達眼鏡を掛けている。
「どうして?変装のつもり?」
 数ある写真の中から、彼が映っているものだけを取り分ける。その中でも一番良く顔が映っているものを、彼の隣に掲げた。
「不二は眼鏡萌えなんか?」
「……オタク」
「もう萌えはフツーの言葉やんか」
 彼の表現に溜息混じりに呟く僕に、彼は憮然として言うと写真を奪い取った。そのまま僕の手首を掴んで引き寄せる。
 多分彼はキスをしようとしてたのだろうけど。僕はそうそう簡単にはいかないから。自由な左手で彼の胸を押すと、そのまま彼を下敷きにして床に倒れた。
「って」
 予期しなかった僕の行動に、彼が強かに頭を打つ。
「別に。僕は忍足を顔で選んでないから」
「だったら何で選んだんや?」
「ん。カラダ」
 クスリと笑って、彼の唇に自分のそれを押し当てる。少し前までは望んでいたはずなのに、僕からのキスに、彼は抵抗した。といっても、それは一瞬だけのものだったけれど。
「体かぁ。ま、でも、その方がええんか」
「どうして?そんなに忍足、僕としたいの?」
「そうゆうわけやなくて」
 微笑う僕の頬に手を触れると、彼は少し上体を持ち上げてキスをした。触れるだけですぐに離れようとするから、追いかけるようにキスをする。
「じゃあ、どういうわけ?」
「性格やと、どうしても摩擦が生じるけど。体が好きなら俺よりも相性の良い奴でも見つからん限り、不二はずっと俺のもんやろ?」
「別に、僕は忍足のものじゃないけどね」
「……相変わらず、つれんなぁ」
 でも俺はお前のもんや。苦笑いの後、真顔でそんなことを言うから僕は思わず吹き出してしまった。そのことに不満げな顔をされるかとも思ったけど、何故か彼はしたり顔で笑っていた。
「眼鏡っちゅうても伊達やから。無くても不二の顔ははっきり見えるし。それに、眼鏡越しだとなんかフィルタ一枚かかってるみたいで嫌やねん。俺はそのままの不二を見たい」
「そのままって。あくまで表面だけだけどね」
「俺は不二の内面よりも外見が好きやから、それでええねん」
「酷いな」
「体と変かわらへんやん」
「……それも、そうか」
 妙に納得して笑いながら頷いた僕に、彼は、やっぱり不二は美人やな、と呟いた。そのしみじみとした言い方がなんだか年寄り臭くて。僕は声まで上げて笑ってしまった。
「微笑くらいが一番美人やと思うねんけど」
 呆れ声になった彼が、胸の上にのせていた僕の額を押しやる。目を合わせた僕は、ゴメンゴメン、とまだ笑いを引き摺りながら言った。
 深呼吸をして、顔を整える。
「忍足」
「なんや?」
「好きだよ」
「……体が」
「勿論。カラダ、も」
「え?」
 僕の言葉に固まった彼に、僕は最上級の微笑みをくれると、半開きになっていた彼の口を静かに塞いだ。




タイトルと中身の雰囲気が合ってなくてスミマセン。
眼鏡は顔の一部でない人間にとってはやっぱり一枚壁を隔てたような気持ちになるわけで。
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