Ring
「たまには泊まっていけや」
 起き上がった僕の腕を掴むと、彼は言った。嫌だよ、笑いながらその手を振り解く。脱ぎ散らかしたシャツに袖を通していると、今度は背中に圧し掛かられた。
「忍足。僕、しつこい男、嫌いなんだけど」
「明日自分誕生日やろ?ちゃんとプレゼント用意してんねんで」
「じゃあ、今渡してよ」
「阿呆。前日に渡して何の意味があんねん」
「だったら、誕生日に渡すことに何の意味があるのかな」
「……ああいえば」
 僕の耳元でわざとらしく大きな溜息を吐く。いつもならそれで諦めてくれるはずなのに、今日は未だ僕を腕の中に収めたままだった。
 ひょろひょろと長い腕。仕方がないから、肩に圧し掛かっているそれに擦り寄る振りをして噛み付くと、彼は小さく呻いて手を離した。その隙にベッドから降りる。
「酷いなぁ」
「君がたまにつける爪跡に比べたら、優しいもんだよ」
 吹いたって痛みが消えるわけもないのに、僕の歯形に向かって彼は何度も息を吹きかけた。構わずに、シャツのボタンをしっかりと閉める。
「なぁ、ほんまに帰るんか?」
「明日が誕生日なら、尚更ね」
「手塚か」
「手塚はきっと忘れてるよ」
「せやったら」
「駄目。誕生日は家族と過ごすから」
 まだ息を吹きかけているその顔を両手で挟み、音を立ててキスをすると、僕は微笑って言った。
 彼が僕を好きな理由の大半を占めているのがこの顔だから、案の定、彼の思考を止めることは出来たみたいだった。
「じゃあ、忍足。明後日、また来るよ」
 枕元に置かれている眼鏡をとり、彼に掛けてあげる。そのことで彼の思考は再び動き出したらしく、しかしそのせいで顔は真っ赤に染まってしまった。
 咳払いをした彼が、僕の視線から隠れるように眼鏡を直す。その仕草が手塚と同じであることに気付き、思わず苦笑した。
 彼から離れ、バッグを肩にかける。
「ちょい待ち」
 まだ赤みの残る顔で彼は言うと、裸のまま慌ててベッドから抜け出し、机の引き出しから小さな箱を取り出した。それはどう見ても指輪を入れるための箱で。僕はその箱と彼を交互に見つめてしまった。
「遅いよりは早い方がましやろ?」
 箱を空け、中に入っていたリングを僕の指に嵌める。
 その箱を見たときにはまさかとは思ったけれど、中に入っていたのはシルバーのファッションリングで、嵌めた指も薬指などではなかった。
「ビックリしたやろ?」
「少し、ね」
 僕の指には似合わない、ゴツゴツとした重いリング。どうしたものかと思っていると、彼は何処に隠し持っていたのか、チェーンを僕に差し出した。
「何?」
「テニスしとる間はそれつけてられないやろ。せかやから、これに通しとき」
「つまり、ずっと身につけてろってこと?」
「不二が手塚のもんやってわかっとるけど。それくらいは俺に不二を分けてくれたってええやろ?」
 手塚、アレでいて独占欲強かったりもするんだけどな。
 そう思いながらも、僕は、ありがと、と微笑むとそのチェーンと箱を受け取った。嬉しそうに口元を緩めた彼の顔が、近づいてくる。
 けど。
「へっ、くしゅ」
「……そんな恰好でいつまでもいるからだよ」
 彼が丸裸だったことを思い出し、僕は呆れた声を上げると、二人で笑いあった。




画を考えると結構間抜けです。
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