FLYING


「お帰り」
 僕が部屋に入ると、彼は笑顔で僕を迎えた。その手には、彼に似つかわしくない花束。
「……何?何で佐伯がここにいるの?」
「何故だと思う?」
 驚いている僕に、彼はしてやったりの顔で言った。悔しいから、その理由を考えてやろうかとも思ったけど、どうも面倒臭くて。僕はクローゼットを開けると、彼に構わず私服に着替えはじめた。僕に無視されたと解かった彼は、小さく溜息を吐くと、ベッドから椅子へと座りなおした。方向を変え、僕をじっと見つめる。
「何だか、見られてると着替えにくいなぁ」
「今更だろ?」
「その気があるのとないのじゃ、違うんだよ」
 苦笑しながら、着替えを終える。クローゼットを閉めると、そこに寄り掛かり彼と、その手にある花束を交互に見た。
「そうそう…」
 僕の視線の意味に気付いた彼は、呟くと立ち上がった。僕に、持っていた花束を差し出す。
「……何?」
「今日は、お前の誕生日だろ?だからさ、これ」
 僕の手を取り、無理やりに花束を持たせる。満足そうに僕と花束を見つめる彼に、思わず笑みを溢した。
「ありがと」
「いえいえ」
 僕の笑みの意味が解かっていないのだろう。彼は頬を少しだけ赤らめると、ベッドに腰を下ろした。僕も、花束を持ったまま彼の隣に座る。
「ところでさ、佐伯。今日が28日だって知ってる?」
「ああ。知ってるさ。でも、29日って4年に1度しかこないだろ?だから、今日が不二の誕生日ってことで」
 毎年そうしてるじゃないか。忘れたのか?と微笑う。そのあまりもの無邪気さに、僕は声を上げて笑ってしまった。
「何が可笑しいんだよ…」
「だって………僕、幾つになったか解かってる?」
「16だろ?」
「そう。16歳。明日で、ね」
 目に溜まった涙を拭う。その指で、僕は壁にかけてあるカレンダーを指差した。もちろん、29の数字が存在するカレンダーだ。
「………あ。」
 しまった、という顔で、彼は僕を見た。それが可笑しくて、また声を上げて笑う。
「佐伯って、昔からそうだよね。肝心なところで思いっきりハズすっていう」
 クスクスと微笑いながら言う僕に、彼は恥ずかしそうに頭を掻きながら、あまり笑うなよ、と弱々しい声で言った。
「でも、嬉しいよ。それだけ僕の誕生日を考えてくれてたってことなんだから」
 今年が閏年なのも忘れるくらいにね、と付け加え、まだ少し赤い彼の顔を覗き込む。
「ありがと」
 呟いて、キスをする。唇を離すと、彼の顔はさらに赤くなっていて、僕は思わず微笑ってしまった。





英語で書くとカッコ良いな。フライング。
false startとも言うようですが。まあ、競技ではないのでね。
気がついたら、100のお題では書いてるけど、普通に不二佐話を書くのは初めて。
そして、両想いも初めて。
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