折れた翼は二度と戻らない。

「で。結局、最後に残ったのは佐伯だけ、か」
 溜息混じりに呟くと、不二は俺を組み敷いた。不服なら別の奴を探せば良いだろ、などとは、思っても絶対に口には出さない。俺は自らこうなる事を望み、この日をずっと待っていたんだ。
「だが、残りものに福ありって言だろ?」
 不敵な笑みを作って見せると、俺は不二を誘うように、その首に腕を絡めた。遊びや気まぐれでなどではない、これから始まる行為を正当化させるようなキスをする。
 唇を離し見上げると、不二は蒼い眼を細めて微笑った。
「でも。確率計算で言うと、残りモノには福なんてないんだよね」
 喉の奥で笑い、もう一度、今度は不二から口付けてくる。
「っ現実的だな。昔はもっと夢見る少年だったのに」
「ヒトは変わるものだよ」
 少しだけ辛そうな眼で、不二は言った。
 恐らく、その脳裏には手塚国光という人間が浮かんでいるのだろう。不二を本気にさせ、そして傷つけた、唯一の人間。不二の自由を奪い、その翼を折った男。
 彼のお蔭で、不二は今こうして俺の傍に居てくれている。
 多分、不二の心の傷は、俺では一生治すことは出来ないだろう。いいや、他の誰でもきっと無理だ。だがそれは、不二が一生俺の傍にいてくれるということだ。
「嫌なら、止めるかい?」
 黙ったままでいる俺に、不二はいつもの顔で微笑った。キスをし、首を横に振る。
「止めない。それに、これは確率計算で出せることじゃないしな」
 不二から手を離し、シャツのボタンを外す。その後で、不二の手を取ると、自分の肌へと触れさせた。
「佐伯は、変わらないんだね」
 遊びでしていたものとは違う、俺を本当に大切にしてくれている指先。その奥に悲しみが見え隠れしているのは気づいているが、俺はそれに気づかないフリをした。
「変わらないさ。不二がそう望むなら。俺はいつまでも変わらずにここにいてやるから」
 最後に不二が戻ってくる場所は、俺しかいない。彼のお蔭で、それが確実になった。
「うん。ありがと」
 不二の呟きに、俺は顔には出さず、微笑った。
「好きだ」
「僕も、好きだよ」
 驚くほどに優しい笑みを浮かべると、不二は俺を強く抱きしめた。





岡もっちの曲ではねぇです(笑)
翼を休める為の小枝も、飛び立つ翼が折れてしまえば帰る場所になるのです。
……短くてすまぬ。
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