みにくいあひるのこ


「どうして上手く行かないんだかな」
 宙を仰いでいる僕の隣に座ると、彼は言った。
「何が?」
 眼を開き、彼を見つめる。彼は苦笑いを浮かべていた。
「不二って、天才って言われてる割には、結構普通だろ。そりゃ、大会の時はメチャメチャ強いけどさ。だからちょっと頑張れば色々勝てると思うんだけど。いっつも俺のほんのちょっと上を行くんだよな」
 今日だって、スコア7−5だろ?
 向かいにあるスコアボードを指差すと、可笑しいと思わないか?と訊いてきた。
「別に。可笑しい事なんて何も無いよ」
 首を振り、また宙を仰ぐ。
 天才、か。そんな言葉、僕にとっては邪魔なだけだ。
「みにくいあひるのこ」
「へ?」
「みにくいアヒルの子って話、知ってる?」
「ああ。でも、それが?」
「彼は、本当に倖せになれたのかな?」
 子供の頃、周りと違うからと疎外された彼。大人になって綺麗になったからといって、仲間を見つけたからといって、彼はそれで本当に倖せになれた?
「僕はね、こう思うんだ。彼は白鳥たちの仲間になりたかったわけじゃなくて、家鴨たちと友達になりたかったんじゃないかって」
「何言ってんだよ。アヒルよりもハクチョウ達のほうが良いに決まってんだろ?綺麗なんだし。俺だって、アヒルよりもハクチョウの方が良いし」
 大きく伸びをすると、佐伯は、きっとそいつも幸せになったさ、と言って微笑った。
 やっぱり、普通はそうなのかな。
 まあ、僕がこういう話をするのは佐伯だけで、彼の意見しか聞いてないから、なんとも言えないけど。
「で、それが何か関係あるのか?」
「だから、それが理由だよ」
 そりゃあ、確かに。大人から見れば天才児って言うのは凄いかもしれないけど。子供の目線から見れば、ただ変わっているというだけだ。そして、異端児は確実に疎外される。裕太だって、最近はそれを気にし始めている。いつまでも変わりなく僕と接してくれてるのは、佐伯だけだ。
「不二がみにくいアヒルの子だって?」
「そう。異端なモノなの」
「ふーん。不二って、天才って言われてる割には、結構馬鹿なのな」
「なっ…」
 莫迦?僕が?そんなこと、裕太に悪口でしか言われた事がないのに。
 言葉を失ってる僕を見て、佐伯はしてやったりという表情で微笑うと、ベンチから立ち上がった。僕の前に立ち、真っ直ぐに見つめてくる。
「不二は醜くなんか無いさ。オレが保証する。それと、アヒルの子はハクチョウたちに出会うまでずっと独りだったから淋しかったのかもしれないけど。不二にはオレがいるからさ」
 ニッ、と微笑うと、彼はラケットを持っていない右手を僕に差し伸べた。その手を取り、立ち上がる。
「オレ、不二のこと好きだから。傍に居るから。だから、不二は安心して『天才』でいろよ」
「佐伯…」
「そうじゃないと、オレ、不二に追いついたって勘違いしちゃうだろ?」
 僕から手を離し悪戯っぽく微笑うと、彼はスコアボードに向かって歩いた。表示されていた7と5の数字を外す。
「さて。もう一試合お願いしようかな。今度は、本気で」
 コートに立ち、僕を手招く。僕も遅れてコートに立つ。でも、多少は手加減してくれよ、凹むから。苦笑しながら言うと、彼はラケットを構えた。真剣な目つきに変わる。
「……ありがと」
 僕も、佐伯の事好きだよ。
 それは言葉に出さず、変わりに黄色いテニスボールを青い空に向かって天高く投げた。





好きじゃない。みにくいアヒルの子って話は。
不二は青学に行って白鳥を見つけますが、彼が求めているのは家鴨。
つぅわけで。一応彼らはまだ小学生。
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