Only


 誰かと重ねる事は勿論だけど。
 誰かと比較する事。それだけでも、きっと…。


「だから、きっと僕は佐伯の事を……んだよ」
「――え?」
 長いキスの後、不二は呟くようにして言った。その言葉に俺の頬は真っ赤に染められたが。多分、それは俺に対して言った言葉ではない。いや、きっと、それを受け取る相手はどこにもいない。
「ねぇ、佐伯」
 俺を抱き締め、そのままベッドに倒れる。俺が無抵抗なのをいいことに、その上に圧し掛かると、またキスをしてきた。
「どうして。僕は越前リョーマという恋人がいるのに、君を求めてしまうのだろうね」
 シャツのボタンを外し、肌に触れてくる。それだけで。俺の身体は信じられないくらいの熱を持ってしまう。多分、これは俺が不二に対して抱いている感情だけではなく、不二が俺に対して抱いている感情も作用しているのだろうけど。
 でも、そんなこと。
「俺が知るはず無いだろ」
 不二の後ろに見え隠れする影に、俺は不貞腐れたように呟いた。ついでに顔を背けようとしたが、それは不二のキスにより、失敗に終わった。
 不二の手が、俺の肌を滑るから。思わず、甘い声が漏れてしまう。
「ねぇ、佐伯。……佐伯は、僕の事どう思ってる?好き?」
 俺がその眼に弱いのを知ってて。不二はわざと髪を耳にかける仕草をした。逆光でも綺麗に光るその眼に、思考が停止しそうになる。
「好きだよ。好きじゃなかったら、こんな事しない。俺は不二と違って純情だからな」
 それを堪える為に、わざと皮肉った言い方をした。ふ、と笑う俺に、不二は口元を歪めると淋しそうに微笑った。
「そっか。好きなんだ」
 呟いて俺から身体を離すと、不二はそのまま仰向けに寝転がった。両腕を額で交差させ、深い溜息を吐く。
「好きだと、不満?」
「……ちょっとね」
 覗き込む俺に、不二は腕をずらして眼を隠すと、口元だけで苦笑した。
 好きが不満なのなら、不二は何故さっきあんな事を言ったのだろう。俺の好きと不二の言葉とでは、意味が違うとでも言うのだろうか。
「なぁ、ふ…」
「ねぇ。佐伯はどうして僕が好きなの?」
 俺の言葉を遮るようにして言うと、不二は腕を解いた。覗き込む俺を、真っ直ぐに見つめる。珍しい真剣さに、俺は大袈裟に溜息を吐いた。
「理解らないよ」
「理解らないの?自分の事なのに?」
 言いながら、俺に腕を伸ばしてくる。その手を取り頬に触れさせてやると、上半身を少し起こした不二にまたキスをされた。そのまま上体を起こし、俺を抱き締める。
「不二だって、どうして俺を求めるのか理解らないんだろ?それと同じだよ。俺も、どうしてかは理解らないけど、不二が好きで、大切なんだ。他の何とも比較できないくらいにね」
 だから、不二が何処で誰と何をしていようと。不二が幸せである限り、俺は何も言わない。
 嫉妬をしないわけじゃないけど。それを不二にぶつけた所で、不二が幸せになれるわけじゃないから。
「じゃあ佐伯は。僕を誰かと重ね合わせたり、較べたりした事は無いっていうの?」
「まあ、不二に似てる奴なんてそうは居ないからね。というより、較べようなんて思わないよ。不二周助っていう人間はこの世に一人だけなんだからさ。俺も、その一人さえ居ればそれで良いし」
「……そう」
「不二?」
「良かった」
 嬉しそうに呟くと、不二は俺に体重をかけてきた。そのまま、俺の上に乗る。見上げた不二の眼は、少し潤んでいるように見えた。
「僕がリョーマを好きなのはね、裕太に似てるからなんだって。最近、気づいたんだ」
 何故ここで、再びその名前が出てくるのかは理解らなかったが、それがとても重要な事な気がして。俺は、腹の中に生まれた嫌な感情を押し込めると、黙って次の言葉を待った。
 不二が、小さく溜息を吐く。
「それに気づいたらね。佐伯の事が、凄く愛しくなったんだ。一度も、他の誰とも重ねたことが無い、較べられない、この世に唯一の佐伯虎次郎の事が」
 不二の眼から降ってきたものが、俺の頬を濡らした。少し遅れて不二の唇も降って来て。今日何度目かの濃厚なキスを交わした。
「結局僕は。そういう人種が好きなのであって、リョーマが好きなわけじゃなかったんだよ。誰かと重ねる事は勿論だけど。誰かと比較する事。それだけでも、きっと。そのヒト自身を無視してるのと変わらないから」
 耳元で囁くようにして言うと、不二は体重を掛けるようにして俺を強く抱きしめた。酷く優しいそれに、俺に軽い眩暈を覚えた。
 不二の体温を全身で感じながら、不二の言葉の意味を考えてみる。けれど、軽い微熱に見舞われた状態の俺が、その真意を探し当てることは無理に等しかった。
 だから、言葉の続きを求めるように、俺は不二の背を軽く叩いた。不二が、ゆっくりと俺から身体を離す。
「僕はリョーマを好きだけど。決して愛してたわけじゃないんだ。僕が本当に愛してた、愛してるのは、誰とも代われない佐伯だけなんだ。今更だけど、やっとその事に気づいたんだよ」
 言うと、また、不二の眼から涙が零れ落ちた。
 何の涙なのか、俺には理解らないけど。多分、悪い意味ではないのだと思う。何故なら、涙を零しながら俺を見つめる不二は、今までに無いくらい綺麗に微笑っていて。
「……だったら。この、俺の気持ちも。きっと好きなんじゃなくて、愛してるって奴なんだろうな」
 微笑いながら返した俺の眼にも、何故か涙が溜まっていたから。





キス魔不二。こんな所で復活(笑)。
散々似てるだのなんだのって話を書いてきて。その自分の考えを否定するような物語を書いてしまいましたけど。
最近気づいたんだからしょうがないよね。
誰とイメージが重なるなぁ、って事は、そういう役割とか類のヒトを求めているだけなんじゃないかって。
本当に大切なヒトって、他の何ともきっと較べられないよね。他のヒトから見たら、何かと重なるかもしれなくても。自分の中では、何とも重ねられない。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送