ガラクシアス


「懐かしいな」
 ベランダで宙を眺めている不二の隣に並ぶと、俺は呟いた。
「そうだね」
 顔を隠している髪を耳にかけながら、不二は俺を見て微笑った。その奥には、小さな笹と、二つの短冊。
「七夕なんて、不二とじゃなきゃやらないしな」
「学校では?」
「小学校ならまだしも、中学じゃもうやらないよ」
「そっか。……ごめん」
 呟くと、不二は俺から眼を逸らすようにして短冊を見た。その後で、宙を仰ぐ。
「謝るなよ」
 何についての『ごめん』なのか。それは理解っていた。でも、それは不可抗力だし、今になってはたいした問題ではないと思った。
 なんて。短冊にその願いを書いてるわけだから、説得力はないのかもしれないけど。
「今はこうして会えてるわけだしさ。それでいいよ」
 その髪を梳くようにして触れ、抱き寄せる。不二は何も言わずそのまま俺に寄り添っていたけれど。何かを思いついたように小さく声を上げると、体を離した。
「不二?」
「入る、かな」
 部屋に入った不二が持ってきたのは、温くなってしまったコーヒー。飲むのかと思ったけれど、不二はそれをせずにそのコーヒーに夜空を映した。
「……何してるんだ?」
「知らない?こうやって星を映して、水面を揺らすの」
 覗きこむ俺にニッと微笑うと、不二は持っていたカップを左右に少しだけ揺らした。夜空が波打ち、星座が歪む。
「こうするとさ、ベガとアルタイルが一瞬だけでも近くなるでしょ。遠く離れた彼らがちゃんと再会を果たせるようにって、オマジナイだよ」
 勿論、僕たちの想いも乗せてね。
 呟いて、クスリと微笑う。空いている左手で見つめる俺の頬に触れると、そのまま唇を重ねられた。しかしその温もりを確認する間もなく、不二は離れると、俺の手を引いて部屋へと戻った。
 窓とカーテンをしっかりと閉め、俺をベッドに座らせる。
「……不二?」
「さて。お星様への願い事もすんだことだしね。もう寝ようか。僕たちだって、一ヶ月ぶりの再会なんだから。一分一秒でも無駄には出来ないんだよ?」
 俺の肩を掴み、ベッドに押しつけると、不二は不敵に微笑った。唇が重ねられる。温もりを確かめるように。その感覚に頭が可笑しくなりそうになったが、俺はなんとか理性を保つと、不二を引き剥がした。立ち上がり、カーテンを開ける。
「……佐伯?」
「電気、消してくれないか?」
「…うん」
 俺の行動に戸惑いながらも、不二は電気を消した。途端、窓から入り込んでくる無数の青白い光。俺は不二の手を取ると、さっきとほぼ同じ体勢になるようにベッドに倒れ込んだ。あの星よりももっと綺麗に輝く、蒼を見つめる。
「どうせなら、見せつけてやろうぜ」
 その眼に向かって不敵に微笑って見せると、俺は不二の首に腕を回し、自分からキスをした。
「……意地悪なんだね」
 唇を離した不二が、少し困ったような口調で呟く。
「でも、やめないんだろ?」
「勿論」
 俺の言葉に、蒼い眼を細めクスリと微笑うと、不二は俺に触れた。漏れてくる俺の声を隠すかのように、窓の外では風で笹が鳴っていた。





…笹って鳴るの?(表現方法が適切なのかどうか自信がないです)
『ガラクシアス』ギリシア語です。日本語だと『天の川』らしいです。
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