流星
 星を見ないか。
 珍しい彼からの電話は、その一言で始まった。いや、それが総てだったといっていいかもしれない。唐突の申し出ながら頷いた僕に、彼は今から迎えに行くと付け加えただけで電話を切ってしまった。
 そして今、僕は彼の隣に並んで星を見上げている。見上げて?違うか。今は、見下ろしている。夜景がとても綺麗だと思う。
「星が流れるのは上だ」
 彼に言われ、仕方なく空を見上げる。だけど、地上の星が五月蝿すぎて、星が余りはっきりとは見えない。どうしてここを観測場所に選んだのだろうかと疑問に思うけど。どうせなら夜景も見たいという無駄にロマンチックな彼の思考の所為なのかもしれない。
「寒いですね」
 彼の前に立ち、寄りかかるようにして体をくっつける。その方が星がよく見える。呟いた彼は両手を僕の体に回した。
「流れ星。貴方は何か願うんですか?」
「何?」
「願うんでしょう?ロマンチストな貴方のことだから」
「その言い方は、君は何も願わないみたいだな」
「願うものなんて、何も持っていませんから」
 星座や流星は好きだけど。そこに自分の願いを託したいとは思わない。願いなんて、今はないけど。あったとしても、僕はそんなことはしないだろう。
「私は、そうだな。君を願おうか」
 そんなことをしたら星なんて見えないだろうに、彼は強く僕を抱きしめると後頭部に顔を埋めてきた。
 あったかいな。
 ぼんやりと星を眺めながら、背中に感じる体温に想う。
「どうして君は、私のものにならない」
「貴方が、僕のものにならないから」
 彼の呟きに、僕はその腕から逃れては答えた。柵にもたれ、背をそらすようにして空を仰ぐ。
「私は――」
「あ。見えた」
 別に彼の言葉を遮ろうと思ったわけじゃない。けれど、視界に入った一瞬の閃光に、僕は思わず声を上げてしまった。
 彼の後方に、次々と流星が見える。どうやら、夜景の所為だけじゃなく、見る方角を僕たちは間違えていたらしい。
「ほら、榊さん。後ろ。凄く綺麗ですよ」
「君は……。興味がなかったのではないのか?」
 声を弾ませる僕に、彼は少し呆れたような顔で言った。それでも、僕の隣に並んでは空を見上げる。
「天体は好きですよ。ただ、願うことが嫌いなだけで」
 途切れることなく流れる星。体が離れたからではなく感じた寒さに、僕は手を伸ばすと彼の指に自分のそれを絡めた。
「だいたい。願ったところで結局、叶えるのは自分なんですから」
「……随分と冷めているんだな」
「無駄な悲しみにを覚えたくないだけです」
 言いながら、自分でも矛盾しているな、と思う。それなら、繋いだこの手はなんなのか。彼の隣にいるのは、何故なのか。
「私は、感情に無駄なものはないと思うがな」
「……星、綺麗ですね」
「ああ」
 頷く彼が手を強く握り返す。そこに感じた温もりに、それ以外のものをが含まれている気がして僕は逃れたかったけど。僕は何とかそれを堪え、彼の肩に頬を寄せた。
 願っているのは僕じゃない。なんて。言い訳じみた言葉を繰り返しながら。




不二榊になると、何故か不二が現実主義になり、榊がロマンチストになります。
……表面上はね。
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