Rose
 校門を出ようとしたとき、バラの花束が少しだけ見えた。  不思議と嫌な予感はしなかったものの、もしその人が僕を待っているのだとしたら、誰であるかは予想がつく。
 とはいえ、本当に嫌な感じはしない。それを疑問に思いつつ、僕は恐る恐る校門へと向かった。
 バラの花束は徐々にその姿を現し、そしてその人の方が見えた。途端、僕はその人の元へと駆け出していた。
「榊さん!」
 呼びかけるとほぼ同時に彼の前に回りこむ。気付かずに通り過ぎたところに声をかけるつもりだったのかもしれない。僕を見つめた彼は、驚いた表情をしていた。
「どうしたんですか?こんなところに。もしかして、うちとの練習試合の申し込みですか?」
「君は、分かっていてそういうことを訊くんだな」
 溜息交じりの声。それでも、その表情は微笑んでいて。歩き出した彼の隣に並んだ僕は、その腕を取りたくなる衝動を堪えるのに必死だった。
「ここ、駐車禁止区域ですよ?」
「見つからなければ問題ない。乗りたまえ」
「教師として、問題発言ですね」
 僕に感化されているのか、彼の意外な発言に僕は笑うと、大人しくその車に乗り込んだ。大量の花束が視界を塞ぐ。
「ねぇ。これ、貴方の家で渡してくれてもよかったんじゃないですか?」
「ここに来る時に買ってきたんだ。車の中で君に見つけられるよりも、先に渡した方が有り難味が増すというものだ」
「なるほど」
 それはそうかもしれない。頷きながらも、けれど僕の視界の殆どを埋め尽くしているこのバラは、現時点ではありがたみはゼロだと思った。
 それにしても、本当に大きな花束だ。ガタイのいい彼が持っても大きいと思えるほどだから、当然といえば当然なのかもしれないけれど。
 この花束がしっかり見えてれば、変な勘違いをしなくても済んだのに。いや、でも、嫌な予感がしなかったというのは、僕の直感がその正体が彼であると分かっていた証拠か。
「どうかしたか?」
「僕の直感って凄いなって思って。バラの花が少し見えただけで、貴方だって分かったんですから」
「バラの花束を持って校門で待っている人間なんて、そうはいないだろう」
「でも。僕の頭は、観月だと思ってたんですよ」
「観月?」
「聖ルドルフ学園の」
「ああ」
 去年、バラの花束を持って観月は僕の家の前で待ち伏せしていた。その記憶が、今日の勘違いを呼び起こしたのだと思う。だけど。
「でも、僕の直感は、それは貴方だと分かっていた。いつもなら、アイツが傍にいるだけで嫌な感じがするのに、今日はバラの花束が見えても嫌な感じはしなかったんです。寧ろ、浮き足立つような感じで」
「少し、複雑な気分だな」
「大丈夫。これからはバラの花束を見れば貴方が思い出されるようになったはずですから」
 こんなにも大きな花束。印象に残らないはずはない。それに、恐らくこの後で起こることも。
「それは、何よりだ」
 何処まで伝わっているのか。彼は前を見つめたままで呟くと、花束を持っている僕の手に何かを期待するように触れてきた。




バラ=観月から
バラ=榊へ。
それは結構嬉しいことかもしれない。
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