スキ。


「そう言えば先週、ランキング戦があったのだったな」
 僕を部屋に招き入れるなり、彼は言った。まぁ、予想はしていたけれど。まず最初に気にするのが僕じゃないってことに、少なからずショックを受けてしまう。
「そうだよ」
 少しだけ、不機嫌な口調で答えてみる。だけど、彼は鈍いから。
「手塚は全勝したか?」
 僕の心境なんて全然気付いていない。溜息を吐き、頷く。
「勝ったよ。乾には3ゲーム取られたけどね。でもまぁ、あれは本気じゃなかったみたいだし」
「フン。いくら手を抜いていたからといっても3ゲームも取られるようでは。たるんどる証拠だな」
 それでも少しだけ安心したような顔になる彼に、僕はまた溜息を吐いた。彼の正面から隣に移動し、その袖を少し引っ張る。
「………それだけ?」
「?」
「他に、訊きたいことは無いの?」
「無いが。何か他にあったのか?」
「……いいよ、もう」
 突き飛ばすようにして袖を放すと、僕は彼に背を向けるようにして立ち上がった。窓を開け放ち、深呼吸をして、自分の中の気持ちを換気する。
「不二。俺は何か間違いを犯したのだろうか?だったら、言ってくれ。ちゃんと正す」
 換気したんだから、そのまま流してくれれば良いのに。彼は僕の後ろに立つと真っ直ぐな声で言った。少し悪かったのかな、というような声色でもしてくれれば可愛げがあるんだけど。まぁ、そんなことしたら真田じゃないか。
「間違いは犯してないと思うよ。ただ僕が勝手に淋しくなってイラついただけ」
 振り返り、ふ、と微笑う。僕の肩を掴もうとする彼の腕をすり抜けると、彼の勉強机に座った。彼の嫌いな行為の一つだ。当然怒るんだろうと思っていたけど、彼は何も言わなかった。黙って、僕の前に立つ。
「ならば、淋しくなったり苛ついたりした理由を教えてくれ。次からは、不二にそのような思いをさせないよう、努力する」
「全く…」
 そう言うものは本来、自分で考えて気付くものなんだけどな。考えるよりも先に本人に訊くなんて、ルール違反だよ。
「しょうがないな、真田は」
 それこそ、たるんどる、と言いたい感じなんだけど。もう一つ、ルール違反。そんな真っ直ぐな眼で訊かれたら、答えるしかないじゃない。
「真田の一番好きなテニスの中で、一番気になるのは手塚でしょ」
「……ああ、そうだな」
「で。テニスの次に好きっていうか、大切な部活の中で、一番気になってるのは入院中の幸村クン」
「そうだな」
「そういうことだよ」
「……どういうことだ?」
 ほらまた。すぐに人に答えを訊く。これってある意味、甘えなんじゃないかと思う。なんてことを言ったら、全力で否定されそうだから、これは僕だけの秘密にしておくけれど。
「じゃあ僕は、君の中で何処に位置してるのかなってさ。テニスでも部活でも一番じゃないじゃない。まぁ、部活は一緒じゃないから当然なんだけど。でも、君の生活の大半を占めているそのどちらにも僕は含まれてないんだなって」
 僕が自分の部活のことを話していても、喰い付いて来るのは手塚の話題だし。彼が部活の話をするとしたら、大半が幸村クンのことだ。
「当然のことだろう」
 溜息を吐こうと息を吸い込んだ僕に、彼ははっきりとした口調で言った。僕を机から降ろす。
「俺は不二をテニスプレイヤーや部員として見ているわけではない」
「………だったら、僕は何処に位置してるの?答えて」
「何処にも位置してなどいないし、何処にも位置している」
 言葉を切ると、彼は僕の両肩をしっかりと掴んだ。大きく息を吸い込む。
「俺の全てにおいての一番だからな」
 やっぱり、ルール違反だ。
 そんな真っ直ぐな眼で、真っ直ぐな声で言われたら。納得してしまうしかない。今までの無神経さを全部帳消しにしてしまうしかない。
「それって、僕を一番好きだってこと?」
「当然だろう」
 少しだけ頬を赤らめて訊く僕に、彼は相変わらずの顔で答えた。それでも。その真っ直ぐさが、本当に僕を好きなんだということを理解らせるから。
「ありがとう」
 呟くと、僕は微笑った。それを見た彼は、ほんの一瞬だけ、顔を赤らめた。





真田には、何処までも真っ直ぐでいて欲しい。(そうじゃないと不二塚になってしまうからね/笑)
全部の一番だから、他とは比べたりしない。
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