ろくでなし


「うわっ」
 街角での偶然の出会いに、思わず、しょうもない声を上げてしまった。
「……千石、くん」
 隣の女に一瞥をくれた不二くんは、オレに視線を戻すと、いつもよりも一層低い声でオレの名を呼んだ。そうして、わざとらしく自分の隣にいる手塚くんの腕に自分のそれを絡ませて見せた。
 手塚くんが、呆れ顔でオレと不二くんを見比べる。いや、実際はずっと表情が変わってないから、呆れてるんだかなんなんだかは分かんないけど。とにかく、オレはそう読み取った。
 いや、そんなことより。
「悪いね。オレ、ちょっと用事」
「……だって。手塚。ちょっと、いい?」
 オレの連れへの言葉を聞いて、不二くんも手塚くんに断りを入れた。と言っても、手塚くんのことだから、少し離れたところで不二くんを待っているのだろうけど。
 オレのほうは。ついさっき知り合ったばっかの、名前も知らない女だから。不満そうな顔ひとつしないで、ってもう既に、人混みに馴染んでるし。
「………で?」
 僕一筋なんじゃなかったっけ?そんな言葉が聞こえて来そうな、溜息混じりの『で』。
「い、いや。これは違うんだ…」
 慌てて言い訳を考え始めたオレに、不二くんは今度は軽薄な笑みを浮かべて見せた。
「えーっと…」
 そんな顔されたら、思いつく言い訳も、思いつかなくなる。
 何て言うか、重苦しい、沈黙。でも、二人きりになろうとしたのはオレだし。不二くんはこの沈黙すらも上の空だから。何とか、言葉を探すけど。
「そういう不二くんだって、手塚くんと一緒だったじゃないか」
 なんて。最悪な言葉が漏れてしまった。不二くんの目が少しだけ、軽蔑の色を含む。
「僕は初めから手塚一筋だよ。それでも良いって、オレには不二くんだけだからって。…言ったのは、嘘だったんだ。余りにも君が熱心だから。少しくらいは、信じてみようかなって思い始めてたのに」
 まぁ、信じても、僕には手塚だけだけど。付け加えると、不二くんは手塚くんがいるであろうオレを通り過ぎた遥か後方を見やった。目が合ったのかも知れない。一瞬だけ、不二くんの目が優しいものに変わった。ホントのホントに、一瞬だけ。
「まぁ別に。いいんだけどね。……で?」
 君は僕に何か言うことがあるんじゃないの?って今度はそんな意味の篭った『で』に、オレは喉が詰まったような声を出した。
 とりあえず、今日のことは謝って、また一からやり直さなきゃいけない。って。ちゃんと分かってるのに、どうしても、『ごめん』の一言が喉の途中で止まったまま、出てきてくれない。
 いつもの口調で、軽く謝ることすらも、出来ないなんて。
「言うこと。無いなら、僕はもう行くけど?」
「え?あ、ちょっ…」
「………何?」
「何って…」
 通り過ぎようとした不二くんの手を、慌てて掴んだは良いけど。やっぱり『ごめん』って一言が出てこなくて。
 不恰好に不二くんを見つめたまま、痺れを切らした手塚くんが不二くんを迎えに来るまで、オレはただひたすらに気持ちの悪い汗を流し続けた。





SURFACEです。アルバム曲です。
♪街角でばったり君と偶然会って
 うわってしょうもない声をあげた♪
諦めろよ!千石くん(笑)
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