「待ってたよ。はい、これ」
驚いた顔で僕を見つめる彼に微笑うと、持っていた箱を差し出した。
「えっと…」
「ハッピーバレンタイン。……要らない?」
「あ、いいえ。貰います。ありがとうございます」
両手に下げていた箱の沢山入った袋を置くと、彼は姿勢を正して僕の右手からそれを受け取った。
「それと、これ」
言って、左手を差し出す。彼は、僕とそれを交互に見つめると、どうしていいのか分からないといった風な顔をした。構わず、彼に持っていた花束を押し付ける。
「えっと…」
「ハッピーバースデイ。…幾ら日付が一緒だからって、プレゼントまで一緒じゃ嫌だろうなって思ってさ。ね、鳳が貰ったチョコ、半分くらいは男からじゃない?」
「……良く分かりましたね。皆、シャレでくれるんですけど。シャレでも男からって言うのは、嬉しくないですよね」
「じゃあ、僕からのも嬉しくない?」
「あ、いいえ。そう言う意味じゃなくて…」
「なんてね。冗談だよ」
慌てて弁解しようとする彼に、僕はクスクスと微笑いながら言った。安心したように、彼が溜息を吐く。
「じゃあ、行こうか」
彼が持っていた袋を何とか左手にまとめて持つと、僕はその隣に並んだ。けど、彼は慌てたように僕の前に回った。
「俺、持ちますよ。自分のですし」
「良いんだよ。鳳は僕のプレゼントだけ、大事そうに持ってれば」
袋に伸ばされた彼の手を避けると、僕は微笑った。もう一度、彼の隣に並ぶ。
「………そうっすね」
頬を赤くしながら、少し困ったように米神あたりを掻くと、彼は大人しく僕の隣に並んで歩き出した。
「あ」
ほんの少し、歩いた所で。彼は気付いたように、慌てて右手に荷物をまとめた。空いた左手を、同じく空いている僕の右手に伸ばしてくる。
「もしかして、ずっと校門で待ってたんですか?」
「そんなに長い時間じゃないよ。部活終了の大体の時間は、跡部から訊いてたから」
「でも、手、こんなに冷たくなって…」
それは、君の手が熱を持ってるからだよ。頬だって、まだ、いや、自分から手を繋ぐなんてことしちゃったから、余計に赤くなってるし。彼の横顔を見つめながら思ったけど、僕は言葉にはしなかった。かわりに、クスクスという微笑いが零れてくる。
「なに微笑ってるんですか?」
「僕の手は、元々冷たいから。それに、これから、手だけじゃなく全身温まるから。平気だよ」
「なっ」
「ね?」
「……で、すね」
微笑いかける僕に、彼はわざとらしく顔を背けると頷いた。それで上手く隠したつもりだったのだろうけど。繋いだ手が、彼の頬がどれくらい赤くなってるかを僕に教えてくれていた。
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