SNOW


 真夜中、肌に感じる寒さでオレは眼を醒ました。どうやら布団を跳ね除けていたらしい。子供の頃からの習性。寮生活をするまでそれに気づかなかったのは、オレが布団を跳ね除けると、いつも兄貴が布団をかけてくれてたかららしい。離れてからそのことに気づくから。未だに礼もいっていない。ま、今は冬休みで。とりあえず1週間ばかりは家にいるわけだから、兄貴と話す機会は幾らでもある。焦る必要もないだろう。
 それにしても、寒すぎる。いつもなら朝まで気が付かずに寝てるんだけど…。
 身体を起こし、辺りを見回す。窓の方から白い光が差し込んでくるのが見えて、オレはベッドから起き上がった。毛布で身体を包み、カーテンを開け、外を見る。
 雪、だ。
 そう言えば、寝る前、兄貴が雪が降ってきたとかなんだとか騒いでたっけ。どうせなら越前と見たかったとも言ってたな。まあ、兄貴のことだから、会いには行かなくても、電話くらいはしているだろう。
「………寒っ」
 何やってんだろ、オレ。最近はどうも可笑しい。何かと兄貴のことを考えてしまう。今までも兄貴を目標にテニスを続けてきたわけだから、考えていなかったわけじゃないんだけど。どうも、そういうのとは方向性が違ってきてるような…。
 ……………。
 気のせいだよな。たぶん。
「寝るか」
 オレは自分の中に浮かんだ考えを振り払うように頭を振ると布団に潜り込んだ。
 と。隣から、パタンと扉の音が聞こえた。
 隣といえば、兄貴の部屋だ。どうしたんだろう。こんな夜中に。
 オレは再び起き上がると、上着を羽織り、部屋を出た。廊下に出て辺りを見回す。人の気配はしない。ということは、兄貴は部屋から出たのではなく、部屋に戻ったということだろうか?
「……兄貴、起きてるのか?」
 家族を起こさないように、極力小さな声でドアに話し掛ける。が。応答はない。その後、何度かノックしたり話し掛けたりしてみたが、全く反応がなかった。焦れたオレは、深呼吸をすると、ドアノブに手をかける。
「兄貴。開けるぞ」
 言って、ゆっくりとドアを開けた。瞬間、吹き込んでくる冷気。
「兄貴?居ないのか?」
 オレは寒さに身を竦めながら恐る恐る部屋へと足を踏み入れた。おれが家を出て行ったときから、何も変わらない部屋。ただ違うのは、机の上にあるオレの写真の横に飾ってある越前の写真。
「なんなんだよ、こいつ」
 家族以外の人は撮らないんじゃなかったのか?軽い苛立ち。理由は解からない。気が付くと、オレはその写真を机に伏せるようにして投げていた。
「って、何やってんだよ、オレは」
 そんな事より、兄貴は一体どこにいったんだろう。まさか、こんな夜中に越前の家に行ったりはしてないよな?  部屋を見回す。と、窓が開けっ放しになっていることに気づいた。どうりで寒いはず。
「ったく。窓くらい閉めとけっての」
 オレは身を乗り出すと、窓を閉めようと手を伸ばした。そのとき、視界の隅に映る黒い影。
「……兄貴?」
 家に背を向けるようにして立ち、兄貴は空を見上げていた。寝間着のままで。周りを見ると、雪に足跡がついていない。多分、ここから兄貴は飛び降りたんだろう。ということは、裸足、か?
「…あにっ……」
 呼ぼうとして、止めた。兄貴は自分の世界を他人に壊されることを極端に嫌う。しかたなく、オレは窓辺に座ると、暫くは黙ってその姿を見ることにした。いや、案外、オレが雪の中に居る兄貴の姿を見て居たかっただけなのかもしれないが。
 自分自身の考えに、苦笑する。これじゃまるでオレが兄貴に恋でもしてるみたいじゃないか。
 ………恋、か。まあ、それも悪くないかもしれない。
「裕太。そんなところで何してんの?」
 唐突にかけられた声に驚いて、思わず、窓から落ちそうになった。慌てて態勢を整えると、下からクスクスと楽しそうな微笑い声が聞こえてきた。
「兄貴こそ、そんなところで何してんだよ」
「ん?雪がさ、綺麗だなって思ってね」
 蒼く綺麗な眼を輝かせながら、楽しそうに微笑う。その手には、愛用のカメラをもっていた。
「そうだ。裕太も撮ってあげるよ。こっち、降りてこない?」
 言うと、兄貴は赤くかじかんだ手で、手招きをした。その姿に、思わず溜息が出る。
「断る。こんな寒いのに外に出たら凍っちまう…」
「そう?残念」
 オレの言葉に、あっさりと兄貴は背を向けてしまった。空にカメラを向け、撮影を再開する。
 なんだよ。もう少しくらい粘ってくれてもいいのに。
 ……素直じゃないな、オレも。
 しょうがない、と溜息をつくと、部屋のクローゼットを(勝手に)開け、兄貴の上着を取り出した。それを手に丸めて持ち、窓枠に手をかける。
「っしょっと」
「裕太!?」
 二階から飛び降りてきたオレに気づき、兄貴は慌てたみたいだった。それが可笑しくて、オレは微笑った。
「笑い事じゃないよ。こんなことして、怪我したらどうするの?」
「大丈夫だよ」
 微笑いながら、オレは兄貴に足をあげて見せた。実際、二階から降りたときの衝撃はなかった。多分、降り積もった雪のお蔭だろう。それよりも、足に感じる寒さの方が酷い。
「それに、兄貴だって、飛び降りてきたんだろ?」
 心配そうに見つめる兄貴に笑顔を向けると、オレは手に持っていた上着を渡した。
「ありがとう」
 苦笑いまじりに言うと、受け取り、それを着込んだ。
「兄貴。」
「ん?」
「かっこよく撮ってくれよ。越前に負けないくらいに」
 言ってニヤリと笑って見せると、兄貴は苦笑した。その姿に、胸が痛んだ。
 やっぱり、兄貴は越前が好きで。多分、越前も兄貴が好きなんだ。で。オレは兄貴が…。
「好きだ」
 思わず、言葉が声になって出る。慌ててオレは兄貴を見た。幸か不幸か。オレに背を向け、写真を撮る場所を捜して居た兄貴の耳元には届いていないようだった。
 妙な溜息が出る。
「どうしたの?」
 振り返ると、呆けていたオレに心配そうな顔をして見せた。
「いや、なんでもねえよ」
 笑顔で答えると、寒い寒い、と呟きながら兄貴のもとへと足を進めた。
 やっとのことで修復できた関係。下手なことを言って壊す必要はない。今は、もう少し、このままで。

「……ところで、兄貴。オレたち、どうやって家ん中入るんだ?」
「え?」
「だって、玄関、鍵閉まってるだろ?」
「………あ。」





ついに書いてしまいましたね。兄弟の話。周裕。
しかし、不二リョ前提(笑)。
不二の相手は手塚でもよかったんだけど、
リョーマのほうが裕太にとって屈辱かな?と思ったのでね。(←悪魔)
不二くんには自然が似合うと思う今日この頃。
人工的なのもいいけどね。ハイテクというよりはそれを通り越した廃墟の方が似合うかも(爆)
裕太は片想いがいいな。切ないのが似合うよ。

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