日常会話


「ちょっと、周助。いい?」
「ね、姉さんっ。いや、ちょっと待っ」
「入るわよ」
「…………あ。あはは。ごめん、散らかってて」
「また裕太の写真(そんなもの)見てたの?」
「だって。裕太が帰ってこなくなっちゃったから…」
「あ。いいわね、これ。後で焼き増しして頂戴ね」
「うん。それは構わないけど。えーっと、何か、用?」
「あと、これとこれもお願いね。で、用事なんだけど。私がわざわざあんたの部屋に来たんだから、分かるわよね?」
「………裕太くんのことですか」
「正解。ここ3ヶ月くらい、毎週末帰ってきてた裕太が、もう2週間も帰ってきてないのよね。明日も、帰ってこないそうよ。というか、電話で聞いたら、あんたがいる限り帰りたくないって」
「……う」
「そういえば、裕太が最後に帰ってきた日。あたし、朝早くに裕太に起こされて、ルドルフまで送らされたのよね」
「……あ」
「何したのよ?」
「……えーっと」
「その様子だと、思い当たる節はあるみたいだけど」
「い、わなきゃ、駄目?」
「いいわよ、言いたくなければ言わなくても。そうしたら、私があの日あんた達の間に何があったかを、自分で見ればいいだけだし」
「…………」
「でも、それをしないでわざわざ聞きにきたってことは、どういうことか。分かるわよね?」
「無駄な魔力は使いたくない、と」
「魔力って、あんたねぇ。違うわよ」
「自白した方が罪は軽いですか」
「というよりも、黙秘する方が罪が重くなるって感じかしらね。さぁ、どうする?」
「………分かった。言うよ。全く、姉さんには敵わないなぁ」
「当たり前でしょう」
「魔女だから?」
「だから、違うわよ。全く。……姉が弟に負けてどうするのよ。周助だって、裕太には負けないでしょう?」
「でも、あの可愛さには負けるけどね」
「私からすれば、どっちも同じくらい可愛いわよ」
「本当?」
「あんたの場合、見た目だけだけどね。だって周助、魔王なんでしょう?」
「男子からはそう言われてるね。で、女子からは、天使とか」
「騙されてる女の子たちが不憫でならないわ」
「で、その実態は。中間をとって、小悪魔とか?」
「それの何処が小悪魔なのよ。小さいのは身長だけにしときなさい」
「小さくないよ。姉さんと2センチも違うんだよ。それに、成長期だってまだ来てないし」
「2センチは大した差じゃないわよ」
「大分違うよ。年齢(トシ)の差を考えれば」
「んー。周助くん、今なんて言ったのかしら?年齢がどうとかって聞こえたけれど?」
「……いえ、別に」
「そういえば。私の友達で、成長期らしい成長期は来ないままだっていう人がいたわね」
「うっそ」
「本当。まぁ、その子は女の子だけどね」
「………えー。でも、そんなに小さいかな、僕。何か、周りがでかいだけだと思うんだけど。今年入ってきた一年なんか、相当小さいよ」
「そういえば、裕太にもいつの間にか抜かされちゃったわね」
「年子は下の子の方が大きくなるって決まってるんだよ」
「いつ決まったのよ、そんなこと」
「だって、僕の周り、皆そうだよ」
「周助の周りは、でしょう?」
「じゃあ、姉さんの周りは?」
「私?えーっと、私の周りは……年子、年子っと……そうね、言われてみれば、下の子の方が体格がいいわね」
「でしょう?」
「でも、あんた分かってるの?」
「何が?」
「裕太があれで成長が止まったら。その法則だと…」
「わっ。違う。じゃあ、違うよ。僕はだってこれから身長伸びるから。成長期、来るから」
「なに慌ててるのよ。そんなに身長伸ばしたいの?」
「顔が顔だからね。もうちょっと欲しいなって」
「幾ら伸びても、女の子に間違えられるわよ、その顔じゃ。全く、こうも外見と中身が一致しない子も珍しいわ」
「姉さんは外見そのままって感じだもんね」
「中身まで美しいってことかしら?」
「魔女っコ」
「………周助くん?」
「えーっと。あっ、そうそう。それとね、せめて、裕太よりは身長欲しいかな、とかね、思ったりして…」
「そうよ、裕太よ」
「え?」
「話しが大分それちゃったけど。周助、あんた、裕太に何したの?」
「…………」
「あら。黙秘?いいわよ、それなら。じゃあ、私は部屋に戻って魔方陣の準備でも…」
「あーっ、ちょっと待ってよ。言うから。言うから。それだけは…」
「全く。結局言うんだから、最初から素直に言いなさいよ」
「ちょっと、何処らへんから切り出そうか考えてたんだよ」
「考える必要なんてないでしょう。最初から話せばいいのよ」
「長くなるよ?」
「いいわよ、別に。周助の話し、嫌いじゃないし。ほら。あの日、何したのよ」
「何って…。帰ってきたから、まぁ、そういう事をしようと思ってたんだけど。そうしたら、裕太が先に寝ちゃったからさぁ」
「そういえば、次の日、先輩との引退試合があるから朝に学校に戻るって言ってたわね。折角の日曜なのに」
「そうなんだよね。だったら金曜にさせてくれれば良かったのにさ、断るから。てっきり僕は土曜にやらせてくれると思ったわけ」
「でも、裕太は先に寝ちゃってた、と。それで?」
「だから、夜這い、したの」
「……それはいつものことじゃない」
「いつもじゃないよ。偶に、だよ」
「どちらにしても、それだけじゃ裕太が来なくなった理由にはならないわね」
「まぁね。それで、いつもならさ、嫌だとか何だとか言いながらも、結局は裕太もその気になってくれるんだけどさ」
「今回ばかりはそうはいかなかったわけね」
「そうなんだよね」
「それって、引退試合があるから?でも、裕太が試合するわけじゃないんでしょう?」
「するんだよね。引退する先輩と。それで、何?裕太の尊敬する?観月とかいう馬鹿?との大切な試合があるとかなんだとか?」
「……何で全部尻上がりなのよ。そんなに嫌い?いい子じゃない。観月くん。たまにあれよ、私が裕太を迎えに行くと、薔薇の花束くれるわよ」
「だ、か、ら、嫌いなんだよ。姉さんと観月じゃ月とスッポンだよ。ああ、勿論、姉さんが月ね。駄目駄目、あんなの。絶対、駄目だからね」
「誰も付き合うなんて言ってないじゃない。ただ、周助が言うほど悪い子じゃないかなって言ってるだけよ」
「それ、姉さん騙されてるから。悪い奴だから。アレは。すっごい悪い奴だから」
「はいはい。観月くんは悪い子ね。分かった、気をつけるわ。それでいいんでしょう?」
「…………」
「大丈夫だって。知ってるでしょう?私が魔女っコなの。自分の身くらい、自分で守れるわよ」
「そうだね」
「……あら、そんなに素直に肯定されると、なんかムカつくわね」
「えーっと。で、話を戻すけど…」
「まぁ、いいわ。それで?」
「思いっきり吹っ飛ばされて、壁に頭ぶつけたの。聞こえなかった?すっごい音がしたんだけど」
「聞こえたわ。でもあれ、裕太が出した音だと思ってたから。いつものことだと思って、全然気にしなかったわ。そう。あれは周助が出した音だったの」
「そうなんだよ。で、痛くてさ。そのまま蹲ったわけ。そうすれば、裕太が反省して、お詫びにやらせてくれるかな、って思ってさ。なのに」
「放って置かれたの?」
「そう。裕太、そのまま布団を頭まで被って寝ちゃったの。ちょっと、信じられないよね」
「……それで?」
「ムカついたから、僕もそのまま、蹲った形で床で寝た」
「……あんたの方が信じられないわよ。それで、朝、鼻声だったのね」
「うん。軽く風邪ひいちゃったみたいだね」
「あら?でも、可笑しいわね。それじゃあ、何で、裕太は逃げるように学校に行ったのかしら」
「あー…うん、まぁ、それは、ね」
「……まだ何かしたの?」
「ちょっと、悪戯を」
「何よ?」
「まぁ、そのまま床で寝てたんだけどさ。寒いじゃない?だから、夜中に目が覚めちゃったんだよね。で、見たら、裕太がぬくぬくと気持ちよさそうに寝てて。襲っても良かったんだけど。時間も時間だし。変に音を立てて姉さんを起こしちゃったら後が怖いし」
「別に怒らないわよ。それが理由で起こされるなら。その代わり…」
「事細かにそのことを報告しろって言うんでしょう?」
「何、その嫌そうな顔は。周助だって、喜んで話すじゃない」
「うん。まぁ、ね。……で。まぁ、でも、とりあえず。遅かったからさ、別の悪戯をしてやろうと思ったわけですよ」
「別の悪戯?」
「裕太ってさ、一度寝るとなかなか起きないじゃない。だから、こう…裕太を起こさないように服を剥いで」
「それじゃあ、いつもと同じじゃない」
「だから、ちょっと、最後まで聞いてよ。で、裕太の服を剥いでね。僕も服を脱いで。寒かったし、ベッドに潜り込んでくっついて寝たわけ。起きたら、裕太、勘違いするかなぁ、って思ってさ」
「それで、見事に裕太は勘違いして、逃げ出したわけね」
「……みたい」
「でも。そこまでして、よく我慢できたわね」
「そりゃあね、あんな風に拒否されたらさ。無茶は出来ないでしょう」
「いつもしてるのに?」
「えーっと。それに、夜も遅いし。というか、僕が眠かったしね」
「あら、勝手」
「……でも、そんなに怒ることだったのかなぁ。だって、やったかやってないかなんて、体の調子で分かるじゃない。起きて直ぐは勘違いするだろうけど、ちょっと動けば悪戯だって分かるのに」
「悪戯でも、嫌だったってことね。それとも……まぁ、いいわ」
「……やっぱり、嫌われちゃったかなぁ」
「嫌われてなければ、ちゃんと帰ってくるでしょう」
「嫌われちゃったかぁ。うーん…」
「……あんた今、怖いこと、考えてない?」
「考えてないよ。でも、裕太も馬鹿だなって」
「やっぱり考えてるじゃない」
「怖いことじゃないよ」
「裕太にしてみれば、充分怖いことよ。折角避難してるのに」
「それが嫌なら、帰ってくれば良いんだよ」
「周助が寮に行かないで家で我慢してれば良いのよ。大体、いつも裕太が我慢してるんだから、偶にはあんたが我慢しなさいよ」
「えー。これでも我慢してるのに?」
「何処が我慢してるのよ」
「だって。毎日会いたいし」
「それはそもそも、あんたが悪いんでしょう?」
「違うよ。あの馬鹿が裕太をスカウトするから悪いんだよ。あと、僕と裕太をいちいち較べてた奴等が悪い。ねぇ、姉さん。裕太が戻ってくるようにしてよ」
「私が?」
「姉さんなら何とか出来るでしょう?魔女っコだし。ね、お願い。可愛い弟を助けると思ってさ。それに、このままだと、色々報告できないよ?」
「……しょうがないわね。でも、私は魔法使いじゃないから。とりあえず、普通に説得してみるわ」
「………普通に?」
「まぁ、あんたが淋しがってるってことと、このままだと暴走するかもしれないっていうことは伝えるつもりだけど」
「それって、脅し」
「あら。脅しなの?」
「……違うの?」
「違うわよ。だって、周助が裕太を好きなように、裕太も周助を好きなんでしょう?」
「うん。……そっか。じゃあ、脅しとは違うね」
「じゃあ、早速、電話してみようかしら」
「え?もう?」
「だって、明日は金曜日よ。土曜の朝に迎えに行くより、明日の夕方、仕事帰りに拾ってっちゃった方が楽だもの」
「あー。それで姉さん、いつも裕太を金曜日に攫ってくるんだ」
「攫うなんて、失礼ね。迎えに行ってあげてるの。あんたの為に」
「それはそれは。ありがとうございます」
「そうそう。感謝してくれなきゃね。ああ、お礼なんていいのよ、別に。家族だし。それくらい、当然じゃない」
「………分かったよ。裕太の写真、ファイルにしてあげるから」
「あら、悪いわね」
「まぁ、世の中、ギブアンドテイクですから」
「ふふっ。裕太も、こんな弟想いな家族を持って幸せね」
「そうだね。裕太は倖せ者だね。ふふっ」





果たして、これを周裕としてもいいものかどうか。
姉さんは腐女子なので、周助からの夜の話は参考資料に(笑)
年子ね、うちの周りでは皆、下の子の方がガタイがいいんだよね。
そして、思ったよりも長くなって吃驚。いやぁ、書いてて楽しかったんだけどもさ。まさかこんなにも長くなるとは…。
裕太って、本当に倖せ者よね(笑)
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