濡れたシャツを脱ぎ、そのままベッドに横たわる。湿った体にシーツが張り付いて、気持ち悪ぃから。布団はかけずに、そのまま丸くなってみた。
 目を瞑ると、雨の音が一層大きく聴こえる。いや、もしかしたら、雨が強くなったのかもしれねぇけど。
 冷え切った肩を抱いてみる。けど、手も冷えてるから。温度差は大して感じなかった。
「お前はいいよな、か」
 突然の雨に、傘を持たずに来た奴らが帰り際、オレにそう言った。だからと言って、オレも傘を持ってたわけじゃない。
 寮までの距離はそんなにないから。いつも傘は持っていかない。
 それは、朝から雨が降っているときもそうだ。バケツをひっくり返したような雨、と例えられるくらいじゃない限りは、傘が無くても走ればさほど濡れない。風邪が強い日なんかは逆に、傘を差して来るやつの方がびしょ濡れだったりするし。
 けど。そんなことはどうでもいい。
「どこがいいんだかな」
 傘を忘れた日。昇降口にはいつも兄貴がいた。オレがどれだけ友達と馬鹿騒ぎして遅くなっても、逆にオレの学年だけが帰りが早くなっても。どういうわけか、兄貴が大すぎる傘を持って、オレが来るのを待っててくれた。
 小学生には大きすぎる傘。滅多にものをせがむことの無い兄貴が、それを親に買ってくれとせがんでたのを覚えてる。子供用でも充分なのに。大人用の、それでも少し大きいくらいの傘がどうしても欲しいんだと駄々をこねてた。
 なんでそんなの欲しいんだって訊いたら、ただ微笑い返すだけで。答えてはくれなかったけど。
 多分、兄貴が傘に入れてくれることに甘えて、傘を持つことをしなくなったオレのため。だったらいいと思う。
 けど。そういう風に考えるようになったのは、ここに来てからで。今はもう、どれだけ待っても、昇降口に兄貴の姿が現れることは無い。
 今、あの傘は。もしかしたら、オレじゃない誰かをこの雨から守ってるのかもしれない。そう思うと、気が、狂いそうになる。
「……寒っ」
 悪寒がする。このままこうしていたら、風邪を引くかもしれない。思わず布団に手を伸ばすけど、やめた。
 このまま、風邪を引いて高熱を出せば。もしかしたら、兄貴が迎えに来てくれるかもしれない。
 予報によると、明日も雨だ。
 まだ少し大きいあの傘を持って。一緒に帰ろうか、って微笑いながら。オレを半ば強引に傘の中に入れるんだ。
「兄貴…」
 ルドルフに行く日。最後に見た哀しげなその笑顔に呟くと、何故か涙が溢れてきた。





ここなら、血眼になって周裕探さなくてもいいですよね(笑)。
久しぶりなので、裕太のキャラが分からなくなっています。ごめんなさい。
相合傘。裕太は素直じゃないから、絶対そっぽ向いてると思う。
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