treasure


「お、おめでと」
 ノックもなしに部屋に入ってくると、裕太は僕に言った。
 ベッドに横になって本を読んでいた僕は、しおりを挟み、体を起こした。
「……あれ?帰ってたんだ」
 幻聴ではないかと半分疑っていたので、この目で裕太の姿を確認した僕は、ちょっと驚いた。それが不満だったのか、裕太は、帰って来ちゃ悪いのかよ、と悪態を吐いた。
「そうじゃないよ。何の連絡も無かったからさ。吃驚しただけ」
 おいで、と自分の隣りの空白を叩く。裕太はまだ納得の行かない様子で、僕の隣に座った。持っていた箱を、僕の前に差し出す。
「……何?」
「だから。今日は兄貴の誕生日だろ?去年は部活あって帰れなかったし。その分も合せて。これ、やるよ」
 言いながら、徐々に赤くなっていく裕太の顔。納得の行かないように見えた態度は、どうやらただの照れだったらしい。それを隠すように顔を背けながら、裕太はその箱を僕の胸に押し付けてきた。
「ありがと」
 その様子が可笑しくて、僕は箱を受け取ると、クスリと微笑った。
「開けてもいいかい?」
「……もうそれは兄貴のだから。好きにすればいいだろ」
 顔を背けたまま、ぶっきらぼうに言う。思わず、抱きしめたい衝動に駆られたけど。プレゼントを放って置くわけにも行かないから。僕は何とかその気持ちを堪え、箱を開けた。
 中に入っていたのは、いつも裕太がくれるものよりも少しだけ大きい仙人掌。多分、"去年の分"がそこに含まれてるのだろう。
「ありがと」
 仙人掌を箱から取り出し、出窓に置く。裕太からプレゼントを貰ったのはこれで5度。ここに飾ってある仙人掌は6つ。1つは僕が自分で買ったもの。それ以外は、総て裕太から貰ったものだ。
 霧吹きで、早速その仙人掌に水をかける。入ってくる陽を水滴が反射して、仙人掌が宝物のように輝る。いや、"ような"じゃなくて、これは本物の僕の宝物だ。裕太から貰ったもの、総て。僕の宝物。もちろん、裕太自身も。
 なんて。こんなこと言ったら、裕太はきっと、ばっかじゃねぇの、って言うんだろうな。
「兄貴?」
 仙人掌を見つめたままの僕を不思議に思ったのか、裕太は隣に並ぶと顔を覗き込んできた。
「裕太のこと。僕にとって凄く大切な存在なんだなって、改めて思ってさ」
 その眼を見つめ、ふ、と微笑ってみせる。と、折角元の色に戻った裕太の顔は、あっという間に真っ赤に染まって行った。
「よっく、そんな恥ずかしいことが言えんな。ばっかじゃねぇの」
 赤くなった顔を、逸らしながら言う。昔から変わらないその仕草に、懐かしさと愛しさを覚えて。僕は裕太を強く抱きしめた。
「あにっ…」
「恥ずかしくなんか無いよ。事実だもの。裕太は僕の宝物なんだ」
「……い、われなくても。んなの解かってるってんだよ」
 罵声が飛んでくるかと思ったけれど。裕太は呟くと、ぎこちない仕草で僕の背に手を廻してきた。
「うん。そうだね」
 それが嬉しくて。僕は頷くと、裕太に久しぶりのキスをした。





どっちかっていうと、shelaで。
実は仙人掌集めは趣味ではなく、趣味になってしまったみたいな(笑)
初っ端から両想い設定は初めてですかね。多分。

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送