永遠が欲しいのなら、その生命(いき)を止めればいいんだよ。
彼の骸(カラダ)を一度だけ強く抱きしめる。
冷たくなり始めている彼を抱き上げ、棺へと横たえた。最期の口づけを交わす。
「君の為に、用意したんだ」
大量の白い花たちを、乱雑にその骸の周りに並べて行く。
――白は、好きではない。
白色が似合うね、と言ったら、あっさりと彼に返された。その言葉を忘れたわけじゃ無いけど。それでも、やっぱり彼を飾るなら、白、だ。
「知ったら、きっと怒るだろうな」
呟いて、苦笑する。もう、届くはずが無いのだから。
「でも大丈夫。直ぐに緋くなるよ。君の好きな、桜のようにね」
花を凡て置くと、ポケットから鋭く光る銀を取り出した。手首に、深く当てる。
「っ」
それは、意外だった。
死を決意していても、痛みは感じるらしい。
――魚だったらよかったのに。
病魔に侵されて行く躰を、彼は呪った。いいや、正しくは、僕と一緒に居ることを拒んでいる躰を、だ。
それでも。出会わなければ、などと彼は決して言わなかった。そして、僕はそんな彼の苦悩を嬉しく思った。
――待っている。
生命を引き取る瞬間、彼の眼は僕にそう囁いた。理解った、と彼の手を握り返すと、彼は微笑み、目覚めることの無い眠りに就いた。
「……きむら」
血を出しすぎた所為か、眩暈がする。
彼の周りの白を凡て緋で染めると、僕は冷たくなってしまったその骸に覆い被さった。硬くなってしまった骸。それを溶かすように、強く抱きしめる。
「もう直ぐ、逝くから…」
呟いて、眼を閉じる。
もう直ぐ、逝くから。君の求めていた永遠へ。
――不二。
暗闇の向こう。光の中で僕を呼ぶ彼は、笑顔で僕に手を差し伸べた。