pace


「不二。置いて行くよ?」
「ん。待って」
 足を止めず振り返って言う俺に、微笑って返す。けれど、不二のペースは相変わらずで、少しも焦りを見せる様子は無い。
 仕方なく、足を止める。
「病み上がりの俺より、どうして不二の方が遅いんだか」
「せっかちなんだよ、幸村は」
 やっとのことで隣に並ぶと、不二はのんびりした口調で言った。その姿に、溜息を吐く。
 病院にいるときは、こうではなかった。もっとしゃんとしていて。だから愚痴や弱音だって吐いた。けれど。この姿を見ていると、頼ることはもう出来ないのではないかと思えてくる。
 それほどに、今の不二はゆったりとした時間の中にいるから。
「不二が遅いだけだ。前はもっと速かっただろ?」
「あれは、幸村に早く会いたかったからだよ」
 少しだけ頬を膨らせた俺に、それでも不二はのんびりとした口調で返すと、ふわりと微笑った。手を伸ばし、俺の指に自分のそれを絡める。
「俺に引っ張って行けと?」
 その笑顔も繋いだ手の温もりも嬉しかったが、ここで不二のペースに呑み込まれたらずっとこのままかもしれないと思い、俺は頬を膨らせたままでいた。顔は、多少赤くなっていたと思うが。
「違うよ。幸村が先に行かないように、だよ」
 手を引いて先へ進もうとする俺に、不二は言うと、後ろへと手を引いた。その力は、のんびりした口調からは想像できないもので、けれど院内で見ていた不二からは容易に想像のつくものだった。
 言葉と行動のギャップに、思わず足を止め、不二の顔を見つめる。
「何、驚いてるの?こう見えても、僕は案外力があるんだって。幸村、知ってるでしょう?それとも、退院してみたら僕がこんなふにゃふにゃになってたから、忘れちゃった?」
「ふにゃ…」
「いや、僕としてはそうなったつもりはないんだけどね。きっと、幸村の目にはそう見えてるだろうなって思ってさ」
 そう言って、ふふ、と微笑う不二は、さっきまでののんびりとした雰囲気は無く、俺のよく知っている不二のそれだった。
「そんなに焦らなくてもさ、時間はたっぷりあるんだし。それよりも、二人並んで外を歩いてるって現実(しあわせ)。もっとちゃんと味わいたいし、味わって欲しいんだ」
 だから、もっとゆっくり行こうよ。再びのんびりとした口調になり言うと、けれど不二は強く俺の手を握り締めた。思わず、顔が赤くなる。
「……そう、だな」
 見つめてくる不二から顔を背け呟くと、クスクスと楽しそうに微笑う不二の手を、これでもかと言うくらい強く握り締めた。





リクエストにより、甘めにしてみました。
タイトルが決まりません(笑)
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