WARP
 不図、目の端に止まった、見覚えのある人影。オレは足を止め、振り返った。見間違えるはずの無い、横顔。直ぐにでも走っていって抱きしめたい衝動に駆られたが、そういうキャラじゃないってことを、通りすがりにオレを見る奴等が告げている。
 気付けよ。オレは心の中で何度も叫んだ。
 目の端に奴を入れつつ、オレはいつもと変わらない態度で街を歩き始めた。
 と、奴は何かに気付いたようにこちらを向く。オレに気付いたのか。オレと奴との距離は見る間に縮まっていった。
「…亜久津?亜久津じゃないのか?」
 肩に手を置かれたことに、少しだけ驚く。
「………河村じゃねぇか。」
 さも、今気付いたかのような口調。あからさま過ぎやしなかったかと少し不安になったが、振り向いたオレと眼が合うと、奴は嬉しそうに笑った。
「やっぱり亜久津だ。久しぶりだな。よくここへ来るのか?」
「あ、ああ。」
 昔と全く変わらない調子で言ってくる奴に、オレは嬉しさを隠しながら極力ぶっきらぼうに答えた。よかった。オレが奴よりも早くにその存在に気付いていたということはバレてない。そういや、こいつは昔から馬鹿がつくほど素直だったな。そういう所に惹かれてた筈なのに。忘れちまってたなんて。馬鹿はオレの方、か。
「亜久津、聞いてるのか?」
「ああ。ちゃんと聞いてるよ」
「嘘だ。そうだ。お前、もしかして腹減ってるんじゃないのか?おれ、今日おごるからさ。マックでも食いに行こうよ」
 流石に、これは誤魔化せなかったようだ。ただ、何でオレが自分の話を聞いていなかったのかっていう理由は間違ってるが。
 行こう、と言うと奴はオレの手を引き、どんどんと街中を歩いて行く。昔と変わらない強引さ。素直過ぎるのも考えもんだな、とオレは苦笑した。
 それにしても。こいつはこんな風に手を繋いでて、恥ずかしくねぇのか?
 そんなことを考えてる間にも、奴は人の間を縫ってどんどんと進んでいく。時々振り返って何かを言うが、オレはそれ所じゃねぇ。ただでさえ、オレの風体は目立つのに、こんな風に手を繋がれて、いや、手を引かれてたら…。
 辺りを見回すと、誰もが慌てて眼をそらした。裏を返せば、誰もがオレとこいつを見ているということ。
「…よぉ。河村よぉ」
「何だい?」
 手を引いて、立ち止まる。オレの雰囲気を察したのか、奴の顔が少しだけ曇る。
「……あーっと…」
「あ。ごめん、もしかして、なんか用事あったのか?」
「いや、そうじゃなくてよ」
「じゃあ、お腹減ってないとか?」
「違げーよ。そんなんじゃなくて。…これ。」
 言ってオレは握られている手を奴の目の前まで上げて見せた。
「……あ。ご、ごめんっ」
 その意味に気付いたのか、少し顔を赤らめながら奴は手を離した。そんな顔をされると、妙に期待しちまうじゃねぇか。オレは自分自身に、落ち着け、と繰り返した。
「なんか、ごめんな。おれ、暴走してる。」
 ラケットも持ってないのに、と俯きながら呟いた。そう言えば、こいつはラケットを持つと人格が変わるらしい。気にするな、と奴の頭を2,3度叩いてやると、安心したのか、奴は顔を上げ、微笑った。
「でも、嬉しいな。亜久津、全然変わってないんだもん」
「それはお互い様だろーが」
 奴の笑顔に、少しだけ顔が赤くなる。それに気付かれないように、オレは手を握ると奴の前を歩き始めた。
「え?あ…亜久津?」
 何が起こったのか解からない、といったような声が後ろから聞こえてくる。確かに、わざわざ自分で解いた手を、今度は自分から繋ぐなんて。オレ自身、何でこんな行動を取っちまったのか。馬鹿だな。だが。
 …最高じゃねぇの。
 オレは声を上げずに小さく笑った。奴に気付かれないように、深呼吸をひとつすると、振り返った。
「なにやってんだよ、テメーはよぉ。ほら、さっさと行くぞ。オレは腹、減ってんだ。たくさん食うからな。覚悟しとけよ、河村。」




如何にかして「最高じゃねぇの」を入れたかったのです。それだけ(笑)
つぅか、亜久津の口調がビミョーですι
タイトルはB'zの最新アルバム『GREEN』から。この曲、好きなんですよね。
亜久津は受けでも攻めでもいけそうな気がします(笑)
まあ、相手がタカさんなんでね。可愛い攻めって事で(爆死)

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送