ベンチ


 公園に入ってくる人影を見つけて、俺の鼓動は少しだけ早くなる。
「亜久津」
「よう、河村」
 俺を見つけた奴が、駆け寄ってくる。俺は片手を上げると立ち上がった。相変わらずちっせぇ河村が、俺を見上げる。
「久しぶりじゃないか。ここの所店にも顔出さないから、心配してたんだよ?」
「別に。俺がどこで何してようと勝手だろ」
 言いながら、俺はその額を軽く小突いた。
「それは、そうなんだけどね」
 河村は額を押さえると苦笑した。だから、いちいち落ち込むんじゃねぇってんだよ。
 しょうがねぇ奴だ。
「悪かったよ」
「え?」
「だから、顔、見せないで」
「……あ。う、ううん」
 俺の言葉に、河村は俯くと小さく首を横に振った。なんなんだよ。謝って欲しかったんじゃねぇのかよ?
「なぁ、亜久津」
 暫くの沈黙の後、河村が呟いた。
「あん?」
「立ち話もなんだし。座らないか?」
 ベンチを指差して言う。俺を見上げるその顔は、少しだけ赤い。それが寒さのせいなのか、さっきの俺の言葉のせいなのか、よくは解からなかった。が、その顔に陰りが無いことに安心した俺は、素直にベンチに腰を下ろした。河村もその隣に座る。
「亜久津」
「あん?」
「何か、おれに用があったんじゃないか?」
「………ああ。まぁな」
 呟くと、俺はポケットの中にある箱を確認した。緊張からか、握り締める手に力が入る。そのままその箱を握りつぶしてしまいそうになって、俺は慌ててポケットから箱ごと手を出した。
「何だい?それ」
 目ざとく見つけた河村は、俺の手の中にある箱を指差して言った。慌てて、箱を後ろへと隠す。
「……今日、これから暇か?」
 わざとらしすぎたかとも思ったが、河村は余り気にしていないようだった。余りにも素直すぎる河村に、多少不審に思ったほうがいいんじゃねぇのかと、少しだけ心配になっちまう。
「あー……。ごめん」
 言うと、河村は俺に向かって深々と頭を下げた。
「なんだ。用事あんのか」
「うん」
 顔を上げ、上目遣いに俺を見つめる。断るのが苦手だからなのか、凄く苦しそうな顔をしてやがる。
「亜久津は憶えてないかもしれないけど、今日、おれの誕生日なんだ」
 ……知ってるっつーんだよ。そのために俺は今日、ここにいるんだからよ。
「…この、鈍感」
「え?」
「何でもねぇよ。んで?今日がオメーの誕生日だからなんなのよ」
「あ、ああ。で。部活の皆がうちで誕生パーティーをしてくれることになったんだ。と、いっても、俺の握る寿司を皆で食べるってだけだけどね」
「じゃあ、しかたねぇな」
 溜息混じりの言葉を吐き、胸ポケットを探る。そういや、今、禁煙中だったな。
「亜久津も、来るかい?」
 申し訳なさそうな表情で、俺の顔を覗き込んできた。俺は河村の頭を軽く小突くと首を横に振り、立ち上がった。
「止めとくよ。色々在ったしよ。俺が行っても雰囲気悪くするだけだろうしな」
「そんなことないよ。亜久津が来ればきっと楽しい…」
「そうじゃねぇよ」
 俺はお前と二人きりで、誕生日を祝いてぇんだよ。
「引退してからなかなか集まってねぇんだろ?いいじゃねぇか。楽しんでこいよ」
「あ、うん。…ごめんな」
「謝んなよ。暇だったから誘っただけだ。じゃあ、俺は行くからよ」
 河村に背を向けると、俺は気づかれないように小さく溜息をついた。折角寒い中待ってたっつーのによ、全部無駄じゃねぇか。くそっ。
「あ、亜久津。忘れ物…」
 その声と共に、俺は手を強く引かれた。振り返ると、河村は俺に箱を差し出した。
「ベンチに、置きっぱなしだったからよ。こんな綺麗なラッピングして。誰かにあげるんじゃないの?」
「ま、まぁな」
 つぅか、お前にやるつもりで置いてきたんだけどよ。
「いいなぁ、亜久津からプレゼントもらえる人って。どんな人なんだろう」
「はっ。鈍感」
 呟くと、俺は河村の手から箱を取り上げた。
「お前んだよ。今日、誕生日なんだろ?」
「え?」
 河村の手を掴み、しっかりとその手のひらに箱を握らせる。ったく、いちいち面倒臭ぇ奴だ。こんな改めて言ったら、照れるじゃねぇのよ。
「用事があるってのは、このことだよ」
 早口で言い、もう一度しっかりと箱を握らせると、俺は手を離した。急いで河村に背を向ける。情けねぇ話だが、赤面してる気がして、俺は河村の顔をまともに見ることができなかった。
「ちょ、と。待って」
 そのまま去るつもりだったのに。河村は俺の肩を掴むと、思いっきり引いた。
「あんだよ」
 振り返った俺は、河村と眼が合ちまった。河村は心なしか赤い顔をていた。
「駄目だよ。受け取れない」
 俺に、箱をつき返す。
「ああ?」
「……今日、さ。8時にはみんな帰ると思うから。その後、じゃ、駄目かな?」
 言いながら、箱を受け取ろうとしない俺の手を掴むと、俺がやったように、手のひらに箱を乗せてきた。
「…河村?」
「これはそのとき、改めてもらうよ。祝ってくれるんだろ?おれの誕生日」
 箱ごと、俺の手を優しく握る。
「……どぉせ、暇だからな」
 俺が呟くと、河村は嬉しそうに微笑った。





アクタカアク同盟に捧げたもの。諸事情により掲載。
偶にはラブラブなアクタカを書かないとね。ほんと。
だっていっつも片想いじゃかわいそうだしね。

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