「こらっ」
溜息の後に聴こえて来た声。見上げる俺に困ったように微笑うと、河村は点けたばかりの煙草を取り上げると、灰皿に擦り付けてしまった。
「ベッドの上で吸っちゃ駄目だって言ってるだろ」
「ったく。いちいちうるせぇんだよ、てめぇはよ」
コツ、と軽く俺の額に拳骨を落とすと、河村はまた困ったように微笑った。俺の手を引き、起き上がらせる。
「ほら、灰皿」
大欠伸をしながらガシガシと頭を掻く俺に、河村は灰皿を差し出すと、今度は少し嬉しそうに微笑った。
「……なにニヤけてやがんだよ」
「別に」
本当に嬉しそうな顔で鼻歌なんか口遊み出すと、河村は俺に背を向けて部屋の掃除を始めた。持参してきたらしいビニール袋を広げ、手際良くゴミを入れていく。依然、ニヤけた表情で。
「おい。だからなにニヤけてやがんだってんだよ」
「何だっていいだろ」
「よくねぇよ。教えやがれ」
睨みつけながら言うのに、河村は相変わらずニヤついたままだ。すぐに忘れちまうが、そういえば、コイツに眼はきか。ねぇんだった。
なら。
俺は思い切り煙を吸い込むと、それを河村に向かって吐き出した。
「教えねぇんなら襲っちまうぞ、コラ」
「ゲホッ、ゲホッ」
煙草の臭いに慣れたとはいえ、それでもまだ向かってくる煙には慣れちゃいねぇようで、河村は激しく咳き込んだ。薄っすらと涙の滲んだ目を擦り、咳のし過ぎで赤くなった顔を上げる。
「……怒らないでよ?」
「俺が教えろつってんだ。怒るわけねぇだろ」
はぁ、と煙を河村のいないところに向かって吐き出すと俺は言った。煙草を灰皿で揉み消し、河村を改めて見つめる。
「で。なんでニヤついてたんだよ」
「……なんかおれ、押しかけ女房みたいだなって思ってさ」
「!」
咳き込んだ以上に顔を赤くして言う河村に、つられるようにして俺も顔が赤くなちまった。それに気づいた河村が、楽しそうに微笑う。
「あんまり妙なこと言うんじゃねぇよ。本気で襲っちまうぞ?」
「別に、亜久津にならいいよ」
「……ふざけんなよ、コラ」
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