かもしれない。


「ほらよ」
 部活終了後、部室で着替えていると、ぶっきらぼうな声と共にビニールの袋が飛んできた。
「って…」
 シャツを着ている途中だったから、それはオレの胸に当たって、そのままオレの足の上に落ちた。
「ったく、何すんだよマムシ!」
「……悪ぃ」
 ってっきり、オメーこそちゃんと受け取れよこのうすのろ!だとかなんだとかって罵声が飛んでくると思ってたから、オレは胸と足の痛みを忘れて、暫く呆然と海堂をみつめちまった。
「あんだよ。おれが素直に謝るのがそんなに珍しいのかよ」
 オレの視線に、ギッと睨みで返すと、海堂はオレに背を向けて着替えはじめた。その陽と睨みはいつもの海堂の目ではあったが、どうも様子がおかしい。
 その理由は、この袋にあるってのか?
 オレは急いでシャツを着ると、足の上に乗っかったままだた袋を取り上げた。そこには、近くの電気屋の名前がプリントしてあった。中身を取り出してみると、十枚一パックのMD。
「おい、海堂。これ何だ?」
「なんだじゃねぇよ。見ればわかるだろ、MDだ」
 そりゃ、そーなんだけどよ。それをどうしてオレに渡すのかって、訊いてんだけどよ。
「てめぇのために、わざわざ買ってきてやったんだよ」
「は?」
「ほ、ほら。今日はてめぇの誕生日だろぉが」
 …………オレの、誕生日?
「あーっ、そうか。だから今日、エージ先輩が珍しくやきそばパン奢ってくれたんだ」
 思わず、声を上げる。珍しいは余計だ、とどっからかエージ先輩の声が聴こえた気がして、オレは慌てて部室を見回した。
 どうやら、エージ先輩はいねーみてーだ。
 安心して、胸を撫で下ろす。だが、その視界の片隅に部長の奥にいた不二先輩がクスクス微笑っているのが見えた。こりゃ、あとでエージ先輩にチクられるな。チクられるよ。
「はぁ」
 思わず、溜息が出る。
「……いらねぇんだったら返せよ」
「はぁ!?」
 きっと、さっきのオレの溜息を自分に対するものだと思ったんだろう。海堂はテニスバッグを肩にかけると、オレに掌を見せた。
「第一、おめぇの欲しいもんなんて食いもん以外に浮かばねぇってんだよ」
 ぶつぶつと呟きながら、さっさとMDを返せと掌を突き出してくる。百パーセント怒っているのかと思ったその顔は、よく見てみると、半分くらいは照れの色が混ざっていた。
「ちげーよ」
 呟いて苦笑する。オレは持っていたMDをバッグの上に置くと、突き出されていた海堂の掌に自分の手を置いた。
「サンキュな」
 手を縦にして、しっかりと握る。
「……っ。んだよ。気色悪ぃ」
 何が癇に障ったのか、海堂は慌ててオレの手を振り解くと背を向けてしまった。一瞬見えた海堂の顔が赤くなってた気がするのは…気のせいだよな、きっと。
「………帰る」
 暫くの沈黙のあと、突然そう呟くと、海堂は一度もオレを振り向かずに半ば走るようにして部室を出て行った。
 その背中を見つめながら、そう言えばプレゼントは貰ったものの海堂からのおめでとうを貰ってないことに気がついた。まー、いっか。海堂がオレのために何を買うか悩んでる所を想像するだけで笑えるし。
 バッグに置きっぱなしだったビニール袋をもう一度手にする。と、その中、MDの下に二つ折りにしたカードが入っているのに気づいた。取り出して、中を開いてみる。
「『誕生日おめでとう』か…」
 海堂の外見からは想像もつかない可愛らしいカードに、性格のよく表れている丁寧な文字で書かれた、簡潔なお祝いの言葉。もしかしたら、このカードがあるから、祝いの言葉を言わなかったのかもしれねーな。ったく、アイツらしーというか、なんつーか。
 オレのためのプレゼントで悩み、可愛らしいカードを少し照れながらかい、自室にこもってこの言葉を書いた海堂を想像してみる。普段なら笑えるネタなんだが、今回は何故か笑えなかった。可愛いっつーか、こう、胸がキュンってするような感じ。
 って、オイ。
「何だ、『キュン』って…」





まだ、両想いではないです。桃←海な感じかな。
タイトルは、この『キュン』が恋かもしれないなーっていうので。
不二クンは手塚の影でことの一部始終を見ているので、明日の部活では二人が出来ているという噂で持ちきり。
これに慌てたのは乾です。乾→海だったりとかもして。あー、それなら面白いなぁ。
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