「これ、いつのだろう…?」
アルバムの中に挟まっていたフィルム。マウント仕上げにしていないモノでも、普段ならちゃんとしまっておくのに。これだけがアルバムの中に無防備に挟んであった。
部屋の明かりに透かしてみる。でも、よく理解らない。
僕はアルバムを閉じるとそのフィルムを持ち、机に向かった。昔に買った、小さなライトボックスと四角い箱型のルーペを取り出す。
下からの眩しいくらいの蛍光灯の明かり。そこにフィルムを置き、ルーペを乗せる。
写っていたのは、桜だった。
忘れもしない、桜吹雪の入学式。手塚国光という人間と、初めて会った日の桜だ。
写真をとり始めた切欠がこれで、その時はまだここまで本格的になるとは思ってもいなかったから、フィルムをぞんざいに扱っていたのだろう。
今と比べて大分幼い手つきで、母の手からインスタントカメラを受け取った。ピントが合ってるかどうかなんてよく理解らなかったけど、夢中でシャッターを切ったっけ。
懐かしいな。
次を覗き込むと、戸惑うような照れたような顔の手塚と、満面の笑みを浮かべている僕がいた。
入学式のその日、勇気を出して彼に声をかけた、彼が僕の事を知っていたのが嬉しくて、母の前に連れて行き、一緒に写真を撮ってもらった。後で聞いた話、彼は写真が苦手だったらしい。だから、こんなぎこちない表情なんだ。
「可愛いなぁ」
ふ、と笑みが零れる。このとき抱いてた恋心は、酷く淡いもので。思い出すと、なんか、ムズガユイ。
あ。僕、身長低いな。今は彼と殆んど変わらないけど、そう言えば同学年の部員の中で一番背が低かったっけ。それでもよく英二が抱きついてきて、結構大変だったんだよな。
今、皆は何をしてるんだろう?
個展を開く為に、僕は久しぶりに日本に戻ってきた。僕が写真を始めた頃のものと、今の作品を並べたくて。初めから上手な奴はいない、と。まあ、これは彼の受け売りだけど。
うん、決めた。この二枚にしよう。
本当はテニスをしている時の写真にしようかと思ってたんだけど。これが僕の原点だし。
出来るだけ、大きく引き伸ばそう。好きなヒトを撮ることからまずは始めたんだって、そこからでもプロになることは出来るって。プロを目指している子どもたちに、教えてあげたい。なんだか少し、照れくさいけど。
案内状も書こう。あの時の青学テニス部の奴等に。もちろん、彼にも。
彼とは一緒に暮らしているから、直接チケットを渡しちゃえばいいんだけど。やっぱり、こういうのは郵送しないとだよね。
「驚くだろうなぁ」
自分が子どもの頃の写真が、世界中のヒトに見られるだなんて。知ったら、怒るかな?
ま、いっか。黙っておこう。その日になって彼を驚かすって言うのもありだよね。それでプロポーズなんかしちゃってさ。顔を赤くしてる彼に、キスなんかすんの。
「あはははは」
うん。なんか、いい。そうしたら、きっと、素敵な一日になるだろうな。記念の写真もまた撮らないとね。