「……甘い」
 唇を離すと、彼のしかめ面がそこにあった。笑いながら、額の皺にキスをする。
「あなた、甘いのお好きでしょう?」
 それに、自分で買ったんですよ、このチョコ。まだ箱の中に残っているチョコを一欠け口に入れ、微笑む。融けかけたそれを共有しようと顔を近づけたけれど、今度は拒絶された。
「ベタつく」
「……飛影は知らないのかもしれないけど。オレ、いっつも手とかベタついてるんですよね」
 押し倒した身体のラインをなぞり、彼のそこにやんわりと触れる。
「変態が」
「抵抗しないあなたもですけどね」
 耳元で囁き、そのまま噛み付く。彼は僅かに体を震わせたけれど、やはり抵抗はしなかった。
 確かに、ベタつくな。唾液塗れの耳朶から口を離しながら、苦笑する。だからと言って、今更止めたりはしないけれど。
 いつまでも布越しに触れていると、彼が焦れたように腰を動かした。浮かべていたオレの苦笑いを自分の行動に対するものだと思ったのか、彼は僅かに頬を赤くすると顔を背けた。
「はやくしろ」
 聴きなれない言葉が、彼の口から零れる。当然のように耳を疑ったけれど、聞き返すことは許されないとでも言うように更に赤くした顔で彼がオレを睨みつけてきたから。はいはい、と苦笑しながら彼の服に手をかけた。
 今夜は、口の中に残るチョコの味よりも甘い一夜になりそうだ、と。そんなことを思いながら。



365題【798.右も左も分からない】の夜。
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