「……君、一年だろ?」
 突然降ってきた声。それと共に赤い視界が黒に変わる。恐らくは、声の主が僕の顔を覗き込んでいるのだろう。仕方がないっか。伸びをして、目を開ける。まだ声の主が光を遮ってると思っていたから、僕は思い切り陽をその目に浴びてしまった。慌てて、伸ばしていた手で日除けを作る。
 途端、また声の主が光を遮断した。ったく、気が利かないな。心のなかで呟きながらも、笑顔を作る。
「そうだよ」
「こんなところで何をしている?」
「日向ぼっこ」
 僕の言葉に、はぁ?と言いたげな顔をする。その彼の表情の変化がおかしくて、思わず笑った。ますます、その年齢に相応しくないであろう、眉間の皺が深くなる。
「僕、明日ここに転校して来るんだ。それで、今日は学校見学に来たの。もう学校を一通り見終えたから、帰っても良かったんだけど。テニス部、入りたくてさ。出来れば明日からやりたいんだけど、見学もせずに入るのは無謀ってもんでしょ?だから、今日、見学しようと思って」
「それで、何故日向ぼっこなんだ?」
「こんないい天気なのに、校内で待ってる必要もないと思ってさ」
 微笑いながら言う僕に対して、彼は始終不機嫌そうな顔をしていた。多分、それが地なんだろうけど。
「そうか」
 余り納得していないような声で呟く。
「ねぇ、君はここの部員なんだよね?」
 体を起こし、彼が座れるだけのスペースを作る。
「そうだが」
 けれど、彼は僕がベンチを空けた意味を理解っていなかった。突っ立ったままで、答える。しょうがないな、全く。苦笑すると、僕は彼の手を引いて隣に座らせた。
「僕、不二周助。よろしく」
 彼の前に、手を差し出す。見つめる彼に、にこっと微笑うと、恐る恐るといった感じだったけど手を握ってくれた。
「オレは――」
「手塚国光、でしょ?」
「……知っていたのか?」
「だってほら」
 驚いた顔をする彼に、微笑いながら胸元にあるゼッケンを指差した。
「君が手塚国光だったんだね」
 パッと見は、文化部に見えるけど。人は見た目に寄らない、なんてことは良くあることだしね。僕も、屋外の運動をしている人には見えないし。
 それにしても。こんな所で会えるなんて、思ってもいなかったな。千葉でも名前だけは有名だったからな。そんな彼と、これからは毎日のように試合が出来るかもしれないなんて。なんて、幸運。
「ね。君、ラケット二本持ってる?」
「……あ、ああ」
「じゃあ、ちょっと打たない?先輩たちが来るまで」
 彼の手をとり、立ち上がる。けれど、彼は首を横に振った。
「何で?」
「そろそろチャイムが聞こえてくるはずだ。オレは授業をサボってここに来たわけではなく、たまたま今日早く終わっただけだ。もうすぐで、先輩たちが来る。お前があの不二周助だというのなら、すぐに試合は終わらないだろう?」
 僕から手を離すと、彼は外に取り付けられた時計を見て言った。つられるようにして僕も時計を見る。と、タイミングを計ったかのように、チャイムが鳴った。
「でも、可笑しいな。あれから2時間も経ってる。もしかして、寝ちゃってたのかな」
 少し、意識が飛んだだけだと思ってたのに。
 腕を組んで、少し考えてみる。そう言えば、少し体が痛いかもしれない。本当に寝ていたのだとしたら、青ベンチは地べたよりも寝心地は悪いってことになるな。
「ん?」
 ふと、目の前の彼が沈黙をしていることに気づき、僕は顔を上げた。と言っても、僕たちの会話は初めから空白ばかりなんだけど。それでも、何か、そういうのとは違う気がする。
「手塚くん、どうしたの?」
「もしかして、2時間も日向ぼっこをしていたのか?」
 呆れた。もしくはそれに近い感情を持った声。彼の顔が、一瞬だけ中学生らしい顔に見えた気がした。
「ってことになるね。実際は、日向ぼっこじゃなくて、昼寝になってたみたいだけど」
「……………」
「何?」
「………変な奴だな、お前は」
 長い沈黙の後、溜息混じりに言った彼は、注意して見ないと判らないくらいの表情で笑っていて。
「うん。そうみたい」
 その笑顔に、僕は何故か胸の高鳴りと、予感めいたものを感じた。





365題のコメントで「運命的な出会いを――」と書いてあったので。とりあえず、不二は千葉から引っ越して来たver.での出会いを書いてみました。不二佐ではそうなんだけど、不二塚だとその設定は殆んど使ってないんですよね。
って、運命的ではないですネ、これ。
運命的な出会いについては既『きっとどこかで...』で書いてますから。んでもって、ノーマルな出会いは『Last love song』で書いてます(ちょっとだけ)。
(ひとつのCPで幾つもの出会いの話が書けるヒト)
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